放課後の部室に、私と部長の二人だった。ついさっきまではもう一人、三年の先輩がいたのだけど、彼氏と都合がついたとかでデートに行ってしまった。お幸せに!

「まあ、こんなもんか」

部長はノートを閉じて、ぐっと腕を伸ばす。

春には卒業してしまう四年生から、後輩たちはそれぞれに引き継ぎをしてもらっているところだ。私達のサークルの一番大きなイベントである、懇意にしている保育園のクリスマス会が来月に迫っていて、その運営から新体制となる。

「困ったことがあったら……頑張れ!」
「ざっくり……!」

スマートなのかと思えば大雑把、しっかり者というよりちゃっかり者。部長のそんなところが親しみやすく、私は彼を慕っていた。私をここに勧誘してくれたのも部長だしね。ちなみに部長は赤坂という苗字でみんな赤坂さんと呼ぶけれど、私にはアカサカって発音しにくくて、部長と呼んでいる。

「何はともあれ、お前の任務は増員だ。得意だろ」
「そう言われるとプレッシャーが」
「大丈夫。プレッシャーなんて三歩歩いたら忘れるから、お前」

なにそれ! バカにして! そう食って掛かっても、なははと笑って流される。

増員が急務なのは、その通りだった。今の人数でこれまでと同じように活動を続けるのは厳しい。差し迫って、クリスマス会の運営はみんな二つ、三つの役割を掛け持ちでやっている。サークルの掛け持ちをしている人もそれなりにいて、口にしないだけで、負担に感じている人はいるんじゃないかと思っていた。せめて学年にあと二人、三人くらい増えたらなあ…。

「そういやクリスマス会、財前誘ってんの?」

今まさに私の思考もそこへたどり着いたところだったので、一瞬面食らう。

「…いーえ。レポートの締め切り近いんで、それが落ち着くまでは静かにしとこうかなと」
「ほー?」
「……その顔なんですか?」

部長がニタッと爽やかじゃない笑い方をしたから指摘しても、それについての返事はなかった。

「追々誘うんだろ?」
「それは、もちろん」
「よし。みょうじ。そのあとのデートもちゃーんと誘えよ」

部長は何も難しいことは言ってない。だけど、ポンと飛び出した単語と自分が結び付かなくて、私はそれを何度が呟いてみた。でーと。date。

「……デート……?」
「そらお前、クリスマスだからな」
「……や、クリスマス会が終わったら、そのあとすぐ打ち上げに行きますよね? みんなで」

去年のことを思い出し、今年もそうなんだろうと勝手に思っていた。そこに財前君も来るだろう、というか引っ張ってでも来てもらおう、なんて考えていたけど。部長は「お馬鹿ちゃんめ」と言って机に頬杖をついた。

「チャンスを逃すな」
「えーと、勧誘の話ですか?」
「ちがわい。お前のコイバナをしてんだろが」
「は」

ヤレヤレっていう顔の部長。私はぽかんと口を開けて、何も言えない。

「みょうじよ。あんなイケメン、ぼーっとしてたら誰かにもってかれるぞ」

好きなんだろ?

部長の問いかけを、頭の中で三十回くらい繰り返したと思う。そうしてようやく、頬がじわじわ熱を持っていくのだった。


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