財前君と出会ったのは半年前、二年生になったばかりの頃だ。同じ学部なのだし、どこかですれ違っていたり一年の時に同じ講義を受けていたりはしただろうけど、同じ部屋にいたって認識してなきゃ出会ってないのといっしょっていうことで。

あの日私は図書室で何冊も学術書を借り、部室に寄って翌日の活動で使う遊び道具を回収して、帰宅しようとしていた。両手で本を抱えて、その上に遊び道具を入れた大きな巾着袋を乗せて。
背負っているリュックに巾着袋を入れておけば、問題なかったんだ。なんで横着してしまったんだろう。何かの拍子に巾着袋が落ちて中のビー玉は廊下に散らばり、ごろごろ転がってしまっていた。拾わなきゃと思って踏み出した足の先でいくつか蹴っ飛ばしちゃって、あー、もう、と私は自分にがっかりして肩を落とす。

あのビー玉を一緒に拾ってくれたのが、たまたま通りかかった財前君だった。無表情だったし、私が「ごめんなさい、ありがとうございます」そう話しかけても返ってきたのは「ん」だけだったけど。いい人だなって思ったんだ。

「悪い。待たせた」

財前君の声にはっとして顔を上げる。彼は私のすぐ横にいた。初めて話をした時からずいぶん経ったような気がしていたけど、半年なんてつい最近だ。そんなことを思いながら回想を終える。

「中で待っとったらええのに」
「うん。でも入口にいた方が見つけてもらいやすいかなーと思ってさ!」
「そうやけど。寒いやん」

財前君がお店に入って、私も後に続いた。
ここは学内のカフェ。約束通り財前君のレポートのお手伝いをしようと選んだのがここだ。本当はすぐに調べものが出来る図書室がいいんだけど、あそこでお喋りするのは憚られるので、やめておいた。授業終わりでそれなりに頭もお疲れだし、甘いものをとりたいしね。

私はもう注文するものを決めていたから、まっすぐレジに進んだ。ホットのココア、上にホイップクリームをのせたやつ。サイズは一番大きいの。

「俺もそれで」
「ちょっ、待って待って払うよ財前君」
「ええから席とれ」
「えっ、うん、ありがとう」

強引に払い除けられ、財前君が二人分のお会計をしてしまった。ホイップクリームのせたしサイズ大きいのだし、なかなかの値段になったと思うんだけど……レギュラーサイズのコーヒーとかにしとけばよかった。
カフェの奥の方に二人がけの席が空いているのを見つけて陣取る。両手にホットの紙コップを持って財前君がやってくると、ココアのいいにおいがして、私ははやくはやくと両手で片方の紙コップを受けとった。

「……」
「ん? どうしたの」
「別に、ただ」
「うん」
「雛みたいな奴やなと」
「なにおう」

なにおうと言いながら、私はにこにこ笑っていた。私は今みたいな財前君の顔が好きだった。無理してない感じ、というか、横にいるのを許されているような感じ。財前君はあまり表情を変えないけど、それでも微妙に違いがあるのだと最近わかるようになったのだ。この前の活動中は楽しそうに見えたしね!

「……あ、そう、土曜日!」

思い出して、前のめりになる。さっき、授業中に財前君からlineが来ていた。土曜無理、の四文字が。

「バイト入った」
「そっか…………」

わかりやすく、落ち込んだ。落ち込む振りをして見せたわけではなく、本当に落ち込んだ。次も来てくれるものだと勝手に思い込んでいたからだ。
ずーんと沈む私に構わず財前君は鞄から本を数冊取り出して、一番上の本をぺらぺらめくった。視線を本にやったまま財前君がつぶやく。次は。

「え?」
「暇やったら行く」
「え、うそ、ほんと?」

今更うそだって言われても、もう取り消しはきかないからね!

勢いよく言ってさっきよりも前のめりになった私に、財前君はテーブルの上の紙コップを避難させた。


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