パーカーの袖を捲り上げて、私はほとんど小走りになりながら集合場所へ向かう。待ち合わせの時間まで十分余裕はあって急ぐ必要は全然ないんだけど、はやる心を抑えられない。
だって、嬉しくって!

「おはようございます!」
「おーみょうじおはよー」

集合場所には部長がいて、近寄って挨拶をするとへらりと笑ってくれた。この人はいつ会っても隙のないお洒落な格好をしているけれど、今日みたいな活動の日にはそんなお洒落することないんじゃないかな、なんて思う。エプロンをするとはいえ、ねえ。

私たちがこれから行くのは保育園だ。そこで子どもたちと遊んだり、給食の準備を手伝ったりする。季節のイベントの準備は子どもと同じくらいワクワクするし、私はこのサークルの活動が好きだ。

「今日あいつ来るんだろ、あの、なんつったか」
「財前君です!」
「それそれ。ザイゼン。みょうじ粘ったなー」
「はい!」
「よくやったよくやった」
「まだ試しに一回ってだけですけどね」

部長と財前君の話をしている間に、今日来る予定のメンバーがぽつぽつ集まる。毎回全員参加というわけではなくて、行く施設の規模に合わせて募集人数が変わり、行きたい人、行ける人が行くのだ。以前はくじ引きなんかで参加抽選もしていたみたいだけど、残念なことにうちは今部員が減りつつあるので募集人数いっぱい集まることはほぼない。財前君のような参加者は本当にありがたい。これで入部までしてくれたら最高なんだけど。

「みょうじ、ザイゼン捕まえたんだって?」

後ろから話しかけられてそちらを向くと、不二君がトートバックを肩にかけなおすところだった。私が半年に渡り財前君を勧誘していたのは周知のことで、財前君はちょっとした有名人だ。

「おはよー」
「おー。すげーなみょうじ。これで何人目だよ」
「財前君が入ってくれたら5人目かな」

一般教養科目で知り合った他の学部の友達が二人と、友達の友達と、不二君に財前君。誘って入ってくれた人を指折り数える。ちなみにうちは今総勢25人だ。私が入学する前、もっと人がいた頃はーー、昔の話はまあいっか。財前君が視界に入って、
私の興味は全部財前君に向かう。

「財前君おはよう!」

元気よく声をかける。けど、財前君はきょとんして足を止めてしまった。えっ、なに!?

「ザイゼンって、財前かよ……」

不二君がそう呟いてようやく、財前君と視線を合わせているのは私ではなく不二君だと気付いた。





今日のハイライトを一つに絞るなら、悩むけど、ぐずって泣いた男の子を財前君がなだめたところかな。普段愛想のあまりよくない財前君から「おかんが悲しむで」なんて言葉が出てくるとは思いもよらなかったし、子どもを相手にするのに慣れた様子だったのも意外だ。うちの活動のお手伝いを引き受けてくれたのだから、子どもが嫌いなわけじゃないんだな、とは思っていたけど。これは嬉しい発見!

そうそう、それから不二君とのこと。二人は中高とテニスをやっていて、合宿で一緒だったこともあるらしい。なにそれ。不二君が羨ましい。テニスをする財前君があんまり想像できなくて、写真とかないの、と二人に聞いてみたけど「あるわけない」と返された。そういうものかなあ。

それにしても私はなんだか財前君がここに来るのは必然な気がして、帰り道、けっこう強く「また来てね!」と押してみた。

「……まあ、気が向いたら」
「向くよ!大丈夫!」

その時の財前君はちょっと変な……なんて言ったら失礼だけど、何を思っているのかわからない表情をした。
うるさいと思えばうるさいと言うのが財前君だ。最初からそうだったわけじゃないけど、今は容赦なくズバズバ言うのだ。だから言ってもらえない方が不安っていうか。あれ、私なにか間違っちゃったかなって思うわけで。

「えーと、ごめん何かやなこと言ったかな」
「は? ……ああ、いや、なんでもない」
「そう?」

なんでもなくないんじゃ、って思ったけど。財前君がレポートのことを話し始めたから、私の頭から直前の話題は飛んでしまった。

「気が向いたらね! 次の土曜日もあるから!」

最後にもうひと押しして、手を振って別れた。11月になったばかりだけど夜の風は冷たい。新しいコート買いたいなあ。あと、マフラーも。今年は何色にしようか。一週間後、そのあとの冬。楽しみがたくさんで、気分は上々だ。


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