次の日は、この修学旅行で男の子たちが一番楽しみにしていたイベントがあった。空知川上流から川下へラフトボートに乗って下ってゆくラフティングだ。
キャンプ場のテントの中で、私服の上からライフジャケットを着て、ヘルメットを装着する。五人一組で、私は謙也と同じボートに乗ることになっていた。先へ先へと急ごうとする謙也を足止めしておくのはそれなりに力が必要だった。

「ええか!? 準備できたやんな!?」
「はいはい。もう行けるよ」
「よっしゃー! 行くでラフティングー! 俺が一番や!」
「順番守ろうねー」

謙也が走り出さないよう、ライフジャケットを掴んで重りになる。私達の前には蔵ノ介や晴奈の班がいて、二人は冷静に言葉を交わしているようだ。私達とはえらい違いだ。

パドルの漕ぎ方や、万が一の時の救助姿勢をスタッフさんからレクチャーしてもらい、いよいよラフトボートに乗り込む。最初は練習、最初は緩やか……なんてスタッフさんは言っていたけれど、実際に川に出てみると最初からかなりの急流だった。話が違う!

「行くでー!」
「こらっ! 謙也! 無茶しな、うわ、わあ!」

1メートルほどの落差がある瀬に勢い良く飛び込む私達のボート。思いっきり水しぶきを浴びて、着水とともに体が後ろに倒れそうになる。そんな私を真後ろにいた謙也がガッチリ支えてくれて、一瞬、頼もしいなんて思ってしまった。
あとから考えれば、瀬に突入するときの勢いの良さは大体が謙也のせいなので、全然頼もしくはない。それでも、小学生の男の子みたいにはしゃいで楽しそうな謙也に、私達はついつい釣られて笑った。


たっぷりとラフティングを楽しんで、ホテルに戻って着替えと昼食を済ませる。そのあとは夜まで自由に富良野散策をしていいことになっているので、私は、晴奈とくまちゃんと一緒に出かける約束をしていた。
ちなみに明日は小樽から札幌への移動を含めて一日自由行動となっていて、そちらは蔵ノ介と約束をしている。行程のほとんどが自由行動だなんて、四天宝寺らしい修学旅行だ。

富良野駅から出るバスには、四天宝寺の生徒がたくさん乗っていた。きっとみんな行き先は同じなのだろう。

「ラベンダーは時期ちゃうんやんな?」
「そうだね。見頃は7月の中旬くらいかな?」
「へー、くまちゃん物知り」
「来る前に調べたんだよ」
「さすが」
「さすが」

目的地の花畑は夏場のラベンダーが一番有名だ。テレビや写真でよく見る一面の紫を、いつかはこの目で見てみたいと思うけれど、今の時期には一面のポピーを見ることが出来て、それもまた素敵なのだとくまちゃんが教えてくれた。

花畑には観光客がたくさんいたけれど、広大な土地の前では、それほど混雑しているようには感じなかった。それぞれ特徴をもって分けられている花畑を手前から順に見ていく。

途中で道行くユウジ小春ちゃんペアにスマホを預けて、初めて三人で写真を撮った。小春ちゃんとも「女の子同士で(はぁと)」なんて言って四人で写真を撮ったけど、ユウジがものすごく悔しそうで。嫌がるユウジと小春ちゃんと私とで、くまちゃんに写真を撮ってもらったあと、最後にみんなで写真を撮る。これは陽気な外国のお姉さんに頼んだ。
ユウジのファンである晴奈は今まで見たことがないくらい、緊張した顔で写真におさまっていた。なんとも微笑ましい。

「持つべきものは友達やな……」

撮ったばかりの写真のデータを送ると、晴奈はしみじみそう言う。
そのとき、花のにおいのする風がサアッと吹き抜けて、風の行方を追いかけるように私は振り返った。

「……あ」
「み、宮崎さん」
「どうも……」

そこには宮崎さんがいた。彼女は小さく会釈をして、私の横を通り過ぎ、すたすたと歩いて行ってしまう。誰かと連れだって歩いているようには見えない。
足を止めて宮崎さんの後ろ姿を見ている私に、「あの子や」と晴奈が小さい声で言った。

「え?」
「白石と一緒に帰ってた子、あの子やで」
「え!?」

二度目の「え」はくまちゃんのものだ。なんで、私に詰め寄る。晴奈もまた、知り合いだったのかと聞いてくる。
どう伝えたらいいのかなぁ。昨日の夜のことをまるっと話してよいものか悩んで、でもすぐに、それはイマイチかなと思い直した。詳細をぼかしながら話す私に二人は思うところがあったのか、深追いはしなかった。

一人で花畑を歩く宮崎さんの背中が、私には寂しくうつって仕方ない。人の波に彼女が混じるまで、私はじっと見つめていた。



2018/04/19


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