20120720 | ナノ


▼ たいせつなこと −取り囲む全て−

四天宝寺中学校、テニス部部室の前に屈みこんで、私たちは目を合わせ、静かに頷いた。夕焼けを浴びた入道雲がオレンジ色にひかる。昼間のむせ返るような暑さは少し落ち着いて、さあっと吹き抜けた風が気持ちいい。7月20日、そんな夕方。
部室の中には光、他数人のテニス部員がいるはずだ。光が部室に一人きりになってくれれば有難いけど、このまま待っていてもその瞬間が訪れるかは分からないし、光が部室から出てきては困る。私たちは突入することを決めた。

「いくで」

先頭の謙也が口パクでそう言って立ち上がる。私たちも、立ち上がる。ケーキの箱は最後尾の銀さんが、プレゼントの包みは白石が持っている。白石はなんでサンタの格好をしているんだろう。ユウジはなんでトナカイの格好をしているんだろう。それから、赤いリボンを体に巻いて、喉元で結んでいる小春ちゃん。……そして私は、どうして大根の着ぐるみを着ているんだろう。これが光の誕生日に何の関係があるんだろう。
いや、そんな事、どうだっていい。光を笑せてやる。

謙也がドアノブを握る。このドアが開いたら、間髪入れず、言うんだ。

「「「誕生日、おめでとう!」」」



**


「謙也さんが?」
「おん。あとな、白石とか健ちゃんもおった気ぃするわ」

パイプ椅子の上で飛び跳ねる遠山の言葉を聞いて、一つ、自分勝手に思い浮かべた事がある。ありふれたことも、くだらんことも、些細なことも、ばかばかしいことも、どんちゃん騒ぎに変えてまうあの人らのことや。「笑わせたもん勝ちや」とか言うてアホなことかましてくるに違いない。

「ユウジさんのタライ、お前、もろてたやろ」

簡単にはノってやらん。とりあえず、最初に入ってきた先輩には、コイツをお見舞いしたりますわ。その後は、まあ、祝われたってもええです。



2012/08/06



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