20120720 | ナノ


▼ くだらないこと −三人の先輩と−

「背景どれにする?」
「これとか、これはどや?」
「星ばっかりじゃん……。白石と財前くんは? どれがいい?」
「二人に任せるわ。なあ、財前」
「……俺、帰りたいんすけど」

狭い空間に男三人女一人。暑苦しい。


**


部活帰りに本屋に寄って、その後は真っ直ぐ帰るつもりやった。冬の手前、マフラーをするには早いけど、空気は冷たい。自動ドアを抜けると身体が縮こまる。本屋の正面のゲーセンには、やたらスカートの短い高校生が群れとって、甲高い声と、ゲーセンから聞こえるチャラチャラした音楽がうるさい。さっさと帰ろう。そう思って歩きだしたのに、後ろから両腕を掴まれて引っ張られた。

「ざーいぜーんくーん」
「おー、財前、いま暇か? ちょっと面貸しぃや」
「……なんすか」

謙也さんと白石部長だった。謙也さんの猫撫で声がキモい。ほんで白石部長は、暇かと聞いておきながら、俺が返事をする前に歩き出す。なんやねん、この二人。
先輩らに腕を掴まれたまま連れて行かれた先はゲーセンやった。しかも、あろうことか、プリクラのコーナー。学ランの男三人がこないなとこにおれば、女子高生らの注目を集める。プリクラとか、ほんま先輩ら、冗談キツいわ。

「安心しぃ、俺らだけやないで」
「せやで! 名前もおるからな!」

いや、名前先輩がおるとかおらんとか、関係ないっすわ。そら、男三人でプリクラ撮るより名前先輩がおった方が遥かにマシやけど。そもそもプリクラが嫌やねん。「放してください」と訴えてみても、まるで聞き入れられん。ぎょうさん並んどる四角い箱の一つに連れ込まれる。中で手鏡を睨んどった名前先輩が、俺を見て、ニタッと笑う。


背景がどうとか明るさがどうとか、設定を選ぶ謙也さんと名前先輩。俺の横で、名前先輩の鏡を借りて前髪をいじる白石部長。ほんま帰ってええっすか?

「財前財前」

折角部長を視界に入れんようにしてたんに、呼ばれては仕方ない。出来る限り「うざったい」と伝えられる表情で振り向いた。部長はそんなこと、全く気にしてない。

「俺、かっこええ?」

どや顔で聞かれた。

「むっちゃ腹立ちます」
「そか。そら、かっこええっちゅうことやな」
「そないなこと言うてませんけど」
「いやいや。言葉にしてもらわんでも分かるわ。うん」
「ほんならもう聞かんでええですやん」
「たまには財前から素直な感想聞きたいやん」
「キモいっす」

うわ、傷つくわー。部長がそう言ってくすくす笑う。この人は部活を引退してから、少し、変わった気がする。

「よっしゃ、撮るでー!」

俺らの前に謙也さんと名前先輩が屈む。『三、二、一』とカウントダウンの後、目を潰す勢いで正面からフラッシュがたかれた。


それから何枚かバシバシ撮られて、もう、疲れた。部長と謙也さんに両頬を引っ張られて無理やり口角上げられるし、いつのネタやねんと思わず突っ込みたくなるポーズを強制させられるしで、散々や。
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら落書きしとった先輩らがブースから出てきた。三人揃って、めっちゃ満足そうにしとる。


「財前くん、後でプリクラのデータ送るね」
「え、いりませんけど」
「財前、折角やしもらっときぃや」
「そやで! 俺の落書き、超大作やから!」
「はあ……」


名前先輩から送られてきたデータを見る。なるほど、確かに謙也さんの落書きは超大作だった。


2012/08/04



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