今日は全てが上手くいく日。
世界中が俺の味方や。

……多分。



太陽の王様と幸せのレシピ




気持ちよく晴れた空に、過ごしやすい春のあたたかさ。学校に行けば誰も彼もが「おめでとう」と言ってくれる。友達はプレゼントをくれるし、一日に何度も女の子に呼び出される。放課後はテニス部の奴らが誕生日会を開いてくれるって言うとった。そん中には名前もおる。
何もかもが俺に優しい今日なら、いける気がする。今日こそ、長年の片思いにケリをつけるんや。


……とまあ、俺の理想はこんな感じやけど、それは理想に過ぎなくて。

朝、カーテンを開ければ空には、今にも雨が落ちてきそうな黒々とした雲。なんでや……。テンションがみるみる下がっていく。

17回目の俺の誕生日はこうして始まった。


俺の理想はトコトン裏切られる。
学校に行けば誰も彼もが「おめでとう」? 今日は土曜日で、春休みの補講授業も無い。夕方までひたすら部活や。それも近くの高校と合同練習で、内輪で盛り上がるなんて出来へん。
せやけど、アイツらは。何やかんやで毎年祝ってくれとるテニス部の連中やったら、オメデトウの言葉くらいくれるはずや。そんで、部活が終わったら名前を呼び止めて、こ、告白するんや。

それで十分。それだけで。そう思いながら部室の扉を開けようと手を伸ばすと、

がんっ

内側から開けられた扉は俺の顔を潰した。鼻が! 鼻がァァァ!

「何やっとるんすか」

部室から出てきた財前が、しゃがみこんで鼻を抑える俺に冷ややかな目を向けて、「邪魔」と。おまっ、お前のせいや!

「お前がいきなり開けるからや!」
「そんくらい避けられるでしょ。スピードスターなんやから」

ハッ、と明らかバカにした笑みを吐き捨てて、財前はコートの方に歩いていく。馬鹿にしよって。ほんまかわいくない!
憤慨しとる俺の横を通り過ぎて、揃ってコートに向かうラブルス、銀、小石川。それぞれおはようとは言ってくれるけど、誰も「おめでとう」を言うてくれへん。毎年言ってくれたやんか。今年は? 忘れとるんか? ……かと言って自分から「今日は俺の誕生日なんやで!」とか言うんも子どもっぽいし。

……なんやねん。
小さくため息をついて、立ち上がった。

今日は俺の誕生日、なんやで。



神様がおるなら、そいつは俺の誕生日を知らんのやと思う。……いや、寧ろ知っとる上でのこの酷い扱いなんかもしれん。
ストレッチしとったら千歳の下駄が飛んでくるし。
銀とダブルス組んであちらさんのダブルスと試合しとる最中、銀のサーブが頭直撃するし。
それを見とったラブスルに大笑いされるし。
名前と一緒に昼飯食おー思て、勇気出して誘ったら「ごめん、小石川と用事があるの!」って言われるし。
一日中、なんや名前が素っ気なくて、練習に集中出来へんし。
お陰で白石に怒られて、仕舞いには「罰として、練習終わったら部室の片付けや!」やって。



薄情モン達が帰ったあとの部室。窓を叩く雨。あーあ、降り出してもうたんか。部室の隅に立て掛けられた、誰の物か分からん傘を持って、部室を締めた。

期待した俺がアホっちゅー話や。
散々やった一日を思い出しながら、家に帰る。オトンもオカンも仕事やし、家には翔太しかおらん。夜ご飯どないしよ。翔太連れてパーっと外食しようかと思いながら玄関の扉に鍵を差し込む。開ける。扉を引く。
もう17やで。誕生日に浮かれるような歳やあらへんわ!


「翔太ー、帰ったでー」

玄関から見えるリビングに灯る明かり。その戸を開けて、ひょっこり顔を出す弟。

「おかえり。遅かったやん」
「おー。エクスタシー部長にこき使われてたんや」

ホンマかなわんで。
こきこき肩を鳴らすと、玄関まで来た翔太が苦笑する。白石先輩、ええ人や思うけど。そう言って俺の後ろを着いてくる翔太。ええ人? まぁ悪い奴やないけど、薄情やで。

言いながらリビングの戸を開けた。




「せーのっ!」


パーンッ


「おめでとう!」
「けーんーやー!おめでとー!」
「謙也ー!ハッピーバースデー!」
「おめでとうさん」
「謙也クン、お・め・で・と・う!」
「忍足、誕生日おめでとさん!」
「よっ、ヘタレスター!ヒューヒュー!」
「遅いっすわ」
「やー、待ちくたびれたばい」



……。

…………!?


破裂音と一緒に飛んできた紙テープ。
名前、金ちゃん、白石、銀、小春、小石川、ユウジ、財前、千歳。それぞれの声。
机の上いっぱいに並べられた料理。その真ん中にドーンと置かれた、アホみたいにデカいホールケーキ。


俺は唖然とした。


「っちゅーか、誰が薄情や!」

白石がからから笑う。「これの準備するためや、許せ」やと? なんや、それ。

「謙也クン、一人で部室に残してしもてごめんねぇ」
「私達も忍びなかったんだよ。謙也、一日中ソワソワしてるから…」
「でもサプライズ成功やなー!謙也めっちゃびっくりしてるやーん!」

ああ、そうやな。めっちゃビックリしたで、金ちゃん。

「誕生日くらいで騒いで。ガキか」
「と言いつつ、一番に謙也の誕生日が近いんに気付いたんは財前やで」

名前の手招きに従って、お誕生日席に座る。その横でユウジが「謙也さんの誕生日、どうするんっすか」と、財前の声で言う。財前がユウジにエルボーをかます。


奥底から溢れてくるものは、なんやろう。
顔はどうにもならん。ただただ、笑みに支配されるばかり。

それでもええか。
お前らがひたすら祝ってくれるから、俺もひたすら笑っておこう。うっかり目から出てきそうになるモノだけは隠して。
ほんで、言うんや。今日が終わってしまう前に。名前の帰り道は、一つの傘に入って。


翔太がにこにこ笑っとる。
そうやな、ええ奴らばっかりや。


「みんな、おおきに。だいっすきやで!」



2012/03/17
Happy Birthday!!


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