sweet,sweet
誕生日プレゼント、何が欲しい?
誕生日が近づくと、きっと誰もが毎年いろんな人に言われるであろう決まりきった台詞。
美味しい料理、お金、可愛い彼女…思い付く物は数多くあれど、結局決められなくて何でもいいよ、なんて軽くあしらう。
一度、「アントーニョ」って答えようとしたこともあったり。何にもいらないから、そばにいてとか。言ってみたい。言える訳ないし、毎年それは叶っているから、別に言う必要はないけれど。
そう考えれば、俺って結構幸せ者なんだよなぁ。
子供でもないのに、気付けば自分の誕生日が1年で一番楽しみな日になっていた。
「ロヴィーノー!親分来たでー!」
「今出るって!」
インターホンは鳴らずに、声で到着の報告。今年もインターホンのボタンが押せないほどプレゼントや荷物を抱えて玄関先に立ってるんだろうなと想像したら、玄関へ向かう足取りもスキップに変わりそうな気分。
「お誕生日おめでとうっ!ロヴィーノ!」
「…おう」
アンティークなデザインの扉を開いた瞬間祝福の第一声。曇り空さえ蹴散らしそうな、太陽の弾けた笑顔でそう言われ、まるで自分は光を浴びた花になってしまったかのように、元気付けられる。リーチの広い両腕に抱えた大量の荷物によって笑顔は半分しか見えなかったが、それも雲の割れ目から顔を出す日光のようで。
アントーニョを中へ通し、荷物は半分こ。
もう毎年恒例となった厳選ワインでの乾杯とアントーニョが腕によりをかけた豪華な料理、それからプレゼントの披露。今年のメイン料理はパエリア。去年もパエリアだった。
「毎年同じメニューでええのん?俺日々新しいレパートリー増やすん、密かに頑張ってんやで?」
「いいんだよ」
ぶーと幼く口を尖らせながら料理を口に運ぶアントーニョに、ロヴィーノはたった一言で返す。
これがいい。毎年同じだって、これが俺の大好物だから。
そう言えたら、本当はいいんだけどな。でもアントーニョはまるでそれが分かっているかのように、その白い歯を見せて幸せそうに笑っていた。
「何だよ、」
「ふふ」
かくいうロヴィーノも笑っていた。
「誕生日プレゼント、何がええ?」
最近よく聞いた台詞。誕生日当日にまた聞くことになるなんて思わなくて、アントーニョと一緒に食事の後片付けをしていたロヴィーノは手の動きを止めた。
「プレゼントならもう貰ったじゃねーか、あんなに沢山」
2人の背後の床に広げた包装紙ごと置かれたプレゼントを指差す。彼の言ってる意味がよく分からない。
「もっといらんの?」
「まだあんのか?何を…?」
「せやから聞いとるんやんか。何して欲しいん?」
「…は!?」
危うく手中の皿を落としてしまうところだった。
何が欲しいのかではなくて、何をして欲しいのか聞いてたらしい。物じゃなくて、行動。
「な、何言って…」
「何でもええよ!1日専属シェフにもなったるし、掃除頼んだらぴっかぴかにしたるで!」
「…あぁー…」
あんまりアントーニョが無邪気な顔でそう言うもんだから、少しばかり期待した自分に憎くなるほどの恥ずかしさを覚えた。
キス、して欲しい。
真っ先に浮かんだ。
「そういうのは先に言えよな…俺はてっきり…」
「…てっきり?」
「や、別に何でもな…っ、」
引き寄せられるシャープな顎同士の距離に、白い皿が手から滑り落ちた。
「てっきりって、こういうこと?」
皿は床に到達する前にアントーニョの左手によって破損を避けることが出来た。だが右手はロヴィーノの顎に触れたまま。彼の右手の長い指は、ロヴィーノの唇をラインに沿って滑らせた。距離にしておおよそ5センチメートル先の彼のペリドットの瞳には、自分のオリーブの瞳がはっきりと写りこんでいた。
嗚呼、男の目だ。
「あれ、ちゃうかった?」
「……」
さほど変わらない身長だから、少し踵を持ち上げる程度の背伸びで簡単に唇は触れ合った。
アントーニョは何も言わずにそれを深くした。小さくコトンと皿を置く音がして、空いた左手が代わりに腰に添えられる。
名残惜しそうに唇が離れる刹那、ロヴィーノがそっと瞼を開く動作をとらえた。数回瞬きをして、お互いの顔をその中に写しだす。瞬きの時にしゃらん、と音がしないのが不思議な位、飴細工のように綺麗に整った睫毛だった。
「…ん、」
「珍しいやん、ロヴィーノからしてくれるんなんて」
「駄目かよ」
「あかんて」
「何でだよ?」
「何して欲しいかって聞いたん俺やのに……俺がプレゼントもろてどうするん」
「じゃあ来年のお前の誕生日には同じようにしろよ、このやろー」
「うん、ええよ。な、もう1回」
「…欲張りな奴」
外見年齢はともかく、正確にはいくつなのかも分からない曖昧な誕生日。
来年もパエリアが食べたいなと、ふと頭の片隅で考えた。
3.17
Happy birthday