distance
朝は一段と寒い。
せっかくの休日に、朝っぱらから何度も鳴り響くインターホンが憎たらしい。
しかも今日は。
「誰だこのやろー」
睡眠を邪魔され、いらいらしながら乱暴に玄関の扉をあけると、白い息を口から発し、寒そうにたたずむアントーニョがいた。
「あ、おった〜!おはようさんロヴィーノ!」
「…何しに来たんだよ、こんな朝っぱらから」
「え〜、相変わらずやなぁ」
「うるせー、ちくしょーめ」
口の悪さは人一倍だが、アントーニョに会えて高まる鼓動も人一倍だ。
「せっかくのクリスマスにフリーな者同士、慰め合おう思て」
その言葉に、ロヴィーノは眉を寄せた。確かに、ナンパはいつも失敗するし、彼女が出来ても長続きしないロヴィーノは、このクリスマス、誰とも一緒に過ごす予定などなかった。
1人でクリスマスパーティーをするのも虚しく、特別やることもなく、いつも通り食事をして風呂に入って寝るつもりだったのだ。
かといって、アントーニョの言うように野郎2人で慰め合うのもどうかと思うが。
「やだよ、なんでクリスマスに野郎2人で過ごさなきゃなんねーんだ。帰れ」
「えぇー!せっかくクリスマスパーティーの材料買うてきたのに!」
そう言うアントーニョの手には、確かに大きな袋がいくつも垂れ下がっていた。しかも2人分とは言いがたい、かなりの量である。
プライドと嬉しさの葛藤の末、ロヴィーノはアントーニョを家の中に通した。
日が落ちて、街の街灯が灯る頃。
2人でキッチンに並んで作ったクリスマスディナーを食べた。アントーニョもロヴィーノも互いに料理の腕は高く、テーブルの上のりそれらは競うかのように豪華だった。味ももちろん、見た目にそぐうものだった。
夜もふける頃。
ワインを片手にソファーに2人で何気なくテレビを見た。特別見たい番組ではなく、テレビをつけたらたまたま入っていた番組を、意味もなく流していた。始めに言った言葉のように、慰め合う訳でもなく、「2人の時間」というものを楽しむようになっていた。
時刻は、もうすぐクリスマスを終えようとしていた。ほろ酔い気分でそんなことなど気にならなかったが、ロヴィーノは、女好きの自分がどうしてかいつまでもこうしていたいと、何故か思ってしまっていることに驚いていた。
そうだ、ずっと。
こうしていたい。
繰り返しそう考える度、酒の影響か、なんだか眠くなってくる。すると、隣に座るアントーニョが気付いた。
「ロヴィ、眠くなっとるやろ」
「ん、」
「手ぇぬくいなぁ」
返事はするが、重い目蓋を閉じたり、半分開けたりするロヴィーノの手を握れば、いつもより温かい。睫毛が、長いことに気が付いたのはこの時だった。
20センチ。
ロヴィーノは眠そうに瞬きを繰り返す。
15センチ。
アントーニョの視線に気付いたようだ。気付かれた。
10センチ。
戸惑いの表情を見せるロヴィーノ。
5センチ。
もうアントーニョは止まれなかった。
4、3、2、1……0。
0になった。
いや、−1だ。
来年も、一緒に過ごそうと、もう一度この唇に約束を。