「オヤ?カミサマ、ソノ姿ハ珍ラシイデスネ」
「そうかい?なに、人間でいう五十くらいさ」
「オ出掛ケデスカ」
「ああ、そろそろ寂しがっているだろうからね。はてな、ついておいで」
光の宮殿は迷宮になっている。
しかし、神にはそんなものは無意味だ。
難なく宮殿の壁をすり抜けて、目的の神の間を目指す。
途中、神の間の前にいる馬の番人に会い、神の影は挨拶を交わした。
リソスと名乗る番人は、客人を快く神の間へと通す。
大理石で出来た大きな扉のその向こう。
玉座には美しい女神が難しい顔をして書簡を読んでいた。
「シグ」
「……」
「シグマ」
「…!エム…」
「仕事熱心な君もかわいいな」
稲妻のようにきれいに迸る髪をなびかせ、シグマと呼ばれた女神は神のもとへと走り出す。
たゆたうシルクの布でできた服を纏い、女神は神に抱き付いた。
神の背中に回された女神の腕に、力が込められる。
それだけで、逢えなかった時間の長さを物語っていた。
「一年間、寂しくさせてごめん」
神が優しい口調で話しかけると、女神は神の胸に顔を埋めて少し横に振った。
きつく服を掴んだ手は、わずかに震えている。
「よい。そなたこそ忙しいのに」
「でも、今日は特別な日じゃあないか」
「…そうだな。ありがとう、エム」
神の、左手の薬指にはめた指輪が淡く輝く。
女神も、同じく。
「これからも、俺と夫婦でいてくれないか」
「…ええ。喜んで」
今日は、結婚記念日。
夫は妻に、毎年プロポーズする。
「あと、シグにプレゼント」
「なんだ」
「ポップンパーティーの招待状」
「…!わらわに…よいのか?」
「ああ。皆に紹介しよう」
俺の、奥さんだって。
2009