兄貴は滅多に笑わない。
秋山さんの前では小さく笑ったりもするけれど、俺の前ではそんなに。
こうやって喫茶店で向かい合ってみても、何も変わらない。
むしろ不機嫌そうだ。
いや、誘ったのは兄貴なんだけど。

「城戸」
「は、はいっ!」
「…そんなに固くならなくてもいいじゃねえか」
「い、いや、兄貴と喫茶店なんて初めてで、どうしたらいいか」
「酒は飲んだだろ」
「そ、そっすけど…」
「俺と喫茶店は嫌だったか?」
「そんな事!ないです!!」
「…声がでかい、城戸」

くすくす。
あ。
兄貴が笑った。
秋山さんにも見せた事がない顔だ。
こんなに意地悪そうに笑う兄貴が見られるなんて、普通じゃ考えられない。
兄貴、笑うとすごく可愛い。

「城戸」
「はっ、はい」
「俺の顔に何かついてるか?」
「い、いや…。兄貴、今日機嫌いいですね」
「機嫌がよくなきゃ喫茶店なんか来ねえよバカ」
「そ、そうですね…。何かありました?」

ずっとくすくす笑ってる。
固い表情の兄貴もかっこいいけれど、こうやって笑ってるのも可愛い。
どうしても兄貴が輝いて見えて、俺はもう相当駄目なんだと思った。
少し目を伏せてコーヒーを飲むしぐさの一つ一つも意識してしまう。
通行人が見えるガラスから漏れる光が兄貴を照らしていて、とても綺麗に見える。
こう見え出すと、もう駄目だよな。

「城戸」
「は…はい」
「たまには、こういうのもいいな」

一つ、息を吐いて伸びたままだった背筋をソファーに預ける。
俺の前でそんなに無防備になっちゃって、知りませんよ。
と考えたところで、何かに気がついた。
兄貴がぐしゃぐしゃと頭を掻きながら、足を組んで煙草を吸い始める。
こんなにだらけた、リラックスした兄貴は俺しか知らない。

「城戸」
「……」
「そろそろ、気付いたか?」



柔らかいローウィン



「…うぬぼれてもいいんすか?」
「それはお前次第だ、城戸」


(兄貴の周りの光源が左右に揺らめいた)


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「見えない臓器の名前は」
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