「谷村さんはずるいよね」
「は?何がですか」
「いちいちかっこいいから女の子にもてるんじゃない?」
お前が言うか。
声を大にしてそう言ってやりたかったが、ここは喫茶店なのでやめておいた。
秋山にしては意外なチーズケーキ(大好物らしい)を頬張りながら、そんな事を言う秋山のほうが綺麗な顔をしている。
と、溜め息を付きながら谷村は思った。
谷村は周りからはイケメンだの男前だのとはよく言われるが、本人は全くそんな事はなかった。
ギャンブルが好きで性格もよくない、そのくせ事件解決をしたと思えば女が必ずと言っていいほど言い寄ってきて非常にうっとおしかった。
「そんな事ないですよ。どうしたんですか、いきなり」
「またまたあ、実は見ちゃったんですよ。可愛い女の子と湯乃園に入っていくところ」
「またあんたはそんな所でキャバ嬢と遊んでたんですか」
「そうそ…って違うよ!集金だよ!」
「どうだか。それと、その女の子は事件で世話になったんですよ。外国の子で、温泉に興味あるって言うから」
「ふうーん」
「別に信じなくてもいいですけど」
「ううん、谷村さんはそう言うとこ素直だから信じるよ。いやあほんと、谷村さんはかっこいいねえ。おじさん緊張しちゃうよ」
嘘付け。
どうせ女相手にもそんな風に口説いているくせに、こんな男を口説いて何が楽しいのか。
谷村はそんな態度をとる秋山に対して段々と苛ついてきていた。
煙草を吸って気を落ち着かせようと一本取り出すと、当たり前のようにぱっ、とジッポーの火が出て来て、少し驚く。
素早い動作は、まるでホステスのようで。
「はい」
「……」
「一応キャバをやるに当たって一通り出来ることはやってたから、ついしちゃうんだよね」
「そうなんですか」
「まあ、誰にでも、ってわけじゃあないですけど」
え、と谷村が目を見開くと、秋山は照れ隠しなのか残ったチーズケーキを口に詰め込んで目を逸らした。
ほんのり色付く髭の生えた頬が、少し気持ち悪い。
気持ち悪い、はずなのに。
じわじわと奇妙な感情が奥から染み出てきて、谷村はその恥ずかしがる年上の男をまじまじと見た。
「…あまり、見ないで下さいよ。恥ずかしいな」
「秋山さん、俺の事好きなんですか?」
「えっ!え、えーと、えっ…な、何、いきなり」
「秋山さんて変な所で素直ですね」
「……ごめんね、今日は告白しようと思ってたんだけど…先に気付かれるなんて」
じわじわ。
しっかり栓をして抑えようとしても溢れ出てくる、生ぬるい感情。
谷村は煙草を灰皿に押し付けて、まだ残っている秋山のチーズケーキを手で掴んでぱくり、と食べてしまった。
秋山が残念そうな声をあげていたが、気にしないふりをする。
「これでいいです」
「え、」
「チーズケーキで手を打ちました。お付き合いしますか」
「…え?」
「…秋山さん、俺もね、」
ガーゼ
(愛しさが溢れ出して止まらなくなったよ)
喫茶店好きで