「……」
「なんや兄弟、ボサっとして。わしの茶が飲めんのかいな」
「いや、そういうわけやないけど…って、なんで茶やねん。酒でもええやないか」
「たまにはええやろ。ほれ、わしが奢ったるからパフェでも食え」
そう言って真島は外見に全く似つかわしくもない可愛らしいパフェを二つ頼み、ブレンドコーヒーを音を立てて飲む。
ゆらゆらと冴島の前に置かれたコーヒーから立ち上る湯気を眺めると、掴みどころがないところが真島と似ている、とぼんやり考えた。
雲一つない空が見える火曜日の真昼間、可愛い要素が一つもないヤクザが二人で向かい合って茶をしばく光景は、神室町以外では見ることはできないだろう。
神室町だからといって、そんなに頻繁にある事ではないとないと思うが。
冴島はコーヒーに口を付けながら真島を見ると、真島も大人しくコーヒーを飲んでいる。
二十五年前と比べれば、だいぶ丸くなったと思う。
あの頃の真島はまるで鞘のない刀のような人間で、ちょっと突けば斬り伏せられる、といったような。
それが今はこうやって向かい合って、出てきたパフェを食いながら昔からの級友、盃を交わした兄弟とのんびり一日を過ごしている。
冴島にとっては未だに信じられなかった。
「相変わらず兄弟とおってもなあんも喋らんし、つまらんのー」
「ほんなら呼ぶなや」
「つまらんのはわかっとるのに呼んでしまうんはやっぱりあれか、恋かもしれんのう」
「やめ、きしょいわ」
「わしも自分で言うといてゾッとしたわ。兄弟、あーんしたろか。うまいで〜」
「殴んで」
「殴り返したるわ」
「もう意味わからん」
「わしもわからんなってきたわ。あー楽し」
こういう意味がわからない会話が好きなのだろう、真島はよく突拍子もない事を言っては自己完結してしまうことが多い。
相槌を打っていればいいのかと思えば、生返事をすると叱られるからなんとも面倒くさい。
しぶしぶ勝手に頼まれたパフェを食えば似合わんのう、と自分を棚に上げて文句を垂れてくる。
誰が頼んだのだ、誰が。
「なあ兄弟、あーんしてや」
「まだそないな事言うてんのか…やめ言うてるやろ」
「ええやんけ一回くらい。ほれ、あーん」
顔を突き出して口を大きく開ける真島に半ばやけくそでパフェのアイスとコーンフレーク部分を突っ込んでやると、真島はそれは満足したように咀嚼して喜んだ。
オッサン同士のいちゃつきに何の意味があるのか、誰が得するのか、本当にわからない。
冴島はどこか聞き覚えのある店内の音楽を頭の片隅で聴きながら、真島のわがままにいつまで付き合わされるのだろうか、と甘ったるいパフェをまた一口食べた。
ジムノペディック
(会えなかった分、これから楽しみたいだけ)