没案
桐生さん。
ずっと憧れていた、堂島の龍が俺の目の前に居た。
いろいろ複雑な事件があったりなんだりしていた中で知り合った。
俺は男になんて興味はないけど、桐生さんを見ているとまるで恋を始めて知った女子中学生のように胸が苦しくなった。
事件が終わった後でも便りが送られてきたり、メールが送られてきたりして意外に律儀で驚いた。
多分、他の人より暇そうで連絡が取りやすいんだと思う。
今日もスカイファイナンスに送られてきたDMやチラシの中に、薄い水色の封筒が入っていた。
スカイファイナンス御中、秋山駿様宛。
にやける顔を隠しきれずに椅子に座って封を切ると、きれいな海の写真。
家の前で撮ったらしいそれは、とても東京と同じ国で撮られたものとは思えない程きれいな海。
時々彼はこうして写真だけや、きれいな貝殻だけなど、粋な計らいを封筒に入れて送ってくる。
手紙が入っていた事はそんなになかった。
けど。
「…あれ、」
可愛らしいピンクの便箋が中から出て来て、開いてみるとこれまた可愛らしい丸文字が並んでいた。
遥ちゃんからだ。
秋山さんへ。
こんにちは、遥です。
おじさんったらね、秋山さんに手紙を出してるの、わたしに黙ってたの。
だから、今回はお願いしておじさんの手紙と一緒にお手紙を書いてみました。
またわたしも神室町に行きたいな。
秋山さんと花さんと谷村さんと冴島さん…あと、伊達さんに真島さんに大吾さん…。
いっぱい会いたい人がいて、わからなくなっちゃうよー。
今度また、おじさんと行けたら行きたいな。
相変わらずの可愛らしさに、思わず微笑んでしまう。
あの子は桐生さんの愛情をいっぱい貰っているから、こんなにいい子に育ったんだろうな。
遥ちゃんの笑顔を思い出しながら顔を綻ばせて続きを読んでみる。
おじさんは相変わらず料理が苦手でカレーも作れないだとか、マメという犬に無表情で顔を舐められてておかしいだとか、この前プリクラを撮ったとか。
便箋に貼られていたプリクラには、笑顔の遥ちゃんとちょっと困った顔をしたおじさん。
可愛らしくらくがきではるか☆おじさんと書いていて胸が暖かくなる。
そして遥ちゃんの可愛さが溢れた手紙も終わりに近づいたとき、目が止まった。
…あのね、おじさん、秋山さんの事、気になってるみたい。
秋山さんのメールを見る度に、笑ってて。
おじさんが笑うなんてそんなにないから、秋山さんがいなくて寂しいのかも…。
忙しいかもしれないけれど、また、おじさんに会いに来てあげて下さい。
わたしも、秋山さんに会いたいな。
また、手紙も書きますね。
遥
「……」
「社長、ラブレター読み終わったなら早く集金に」
「花ちゃん」
「はい?」
「今度、社員旅行で沖縄にでも行かない?店休みにしてさ」
いま、会いに行きます
「もー、どうせ桐生さんが目当てなんでしょ」
「う…」
「しょうがないから、付き合ってあげますよ。すし吟のマグロ100貫で」
「……。」
遥ちゃんも花ちゃんも可愛くてつい出したくなります…