学パロ
全体的にホモ臭。基本庶法、時々姜覇。


04*恋する保健医

徐庶先生は恋をしている。
あの冴えない、不憫、根暗と三拍子揃った保健医が、誰かに片想いをしている。
そんな噂が生徒達の間で横行し、多くの者が保健室までからかいに来る始末だ。
その噂はもちろん職員室にまで届き、魯粛教員なんかはどこかにやにやしながら勘ぐってくる。
恋の相手は果たして美女か醜女か、年下か年上か。
毎日毎日尋ねられても、小心者の徐庶教員は答えられる度胸などなかった。
ある特定の生徒には既に事故で目撃されてはいたが、それ以外の人間には未だに伝えてはいない。
当たり前である。
冴えない保健医、徐庶の恋の相手は、誰にも想像付かないほど間逆の人間であったのだ。



「徐庶先生〜、いい加減教えてよ、口は堅い方なんだぜ、俺」
「恐縮ながら、私も聞きたいです!尊敬する徐庶先生の愛する方がどんな方なのか!」
「ええと…、俺なんかの話より、君たちの容態を聞きたいのだけど…。まだ授業中だろう」
「「腹痛を装ってきたぜ(きました)!」」
「……。単位取れなくても知らないぞ。それに、俺なんかのそういう話を聞いたところで、どうするつもりなんだい」
「いやあー、モテない代表の徐庶先生の恋、応援しちゃおうかなー、俺。って思って!」
「私も微力ながら!!」
「…ものすごく余計なお世話だよ…。早く授業に戻らないと夏侯惇先生にサボりってチクるよ」
「うわ、それは勘弁!はあ、しゃーねえ、楽進行くぞ」
「徐庶先生は生徒をもっと信じるべきです!李典さんは口が堅いと仰っているのに!」
「李典はともかく、君が軽いから…。さあ、早く戻りなさい。次に下らない理由でサボりに来るのなら、今度は、許さないよ」
「きょっ、きょ、恐縮です!」
「はいはいはい、すみません失礼しましたー!」

目が座ってる徐庶先生初めて見た、と言いながら遠ざかる声に、徐庶は溜め息をつきながら椅子に座った。
眼鏡を外して目頭を指で押さえると、少し目の疲れが取れた気がする。
元々整えないぼさぼさのままの髪を掻き、頬杖を付いて虚空を見上げる。
なるほど、確かにこういう仕草は恋をしているように見えるかもしれない。
目を閉じれば相手の姿も浮かんでくるし、名前を呼ぶ声も脳内で再生出来る。
特徴のある声が耳に滑り込み、頭や胸の奥をいとも簡単に熱くさせる事が出来るのは、あの人間以外にいるのだろうか。
ちら、と時計を見ると、まだ三時限が始まったばかり。
三時限は、確か授業が入っていないはずだ。
授業が入っていないとすれば、ここに来る可能性が高い。
安いスリッパをぺたぺた鳴らし、飴を舌で転がし、白衣をはためかせて廊下を闊歩するその姿も、容易に想像できる。
それほどまでによく、目で追っていたように思う。
そんな事を考えているうちに、ほら、また。
ぺたぺた、と少し踵を擦るようなゆっくりとした歩き方で、こちらへ近付いてくる。
先程のように生徒が来たらどうしよう、とか、そういうことは気にしない質であるから困りものだ。
むしろ、極力生徒と会う確率が低い時間に来る事のほうが珍しいように思える。
保健室の扉をがら、と開け、後ろ手で閉めてついでに鍵を掛けるその動作は、まるであらかじめインプットされているかのように滑らかだ。
徐庶は椅子を回してその相手に向き直ると、次の衝撃に備えて少し腕を開いた。
そうすれば、足早で寄ってきて膝に跨り、ぼす、と徐庶に抱き付いてくる。
この行動も、生まれつき刷り込まれたもののようにごく当たり前に繰り返されている。

「…学校ではやめましょうって言ったじゃないですか」
「ばあか、いいだろう、別に」
「先程も生徒が来てたんですよ」
「俺はかまわん」
「俺がかまうんです!」

くく、と喉を鳴らして笑う彼は、化学担当の教師の法正という。
性格の悪い、えげつない授業が特徴的で、まさにひねくれ者である彼を現しているようなテスト問題も生徒からは大変不評。
しかし問題が解らないという生徒一人一人に対する根気強さは目を見張るものがあり、優れた容姿も相まって人間としては女子から人気がある。
そんな法正が、この徐庶に何故か夢中になっていた。
校内でも隙あらばキスをしてくるし、誰もいない場所であればこうして甘えてきたりもする。
こういう仲になったのは半ば成り行きではあったのだが、確かに徐庶は彼を愛しているし、法正も手が付けられない程に徐庶にのめり込んでいるようだった。

「…徐庶先生、」
「だ、だから駄目ですって!ネクタイ緩めないで下さい!」
「いいだろ、ちょっとくらい…」
「駄目です、あ、ちょっと…!」
「徐庶せんせ…」

この低く、甘い声は反則だと思う。
自分が持つあらゆる武器を使う彼は、本当に劇薬をぶっ掛けて理性を溶かしにかかってくる。
首を舐められ、体をまさぐられ、身を寄せて徐庶をねだる。
右に流した前髪の間から見える目も熱く揺れ、また理性が溶かされた。

「……ちょっと、だけですよ」
「ああ…。ん、っ…」

彼の頬に口付け、首筋を指の腹でなぞると、熱い息が耳あたりにかかる。
本当に、毎度発情されては適わないのだが、据え膳は少しでも頂いておかなくては。
白衣に手を入れて腰や背を手の平で撫でれば、色付いた小さな声で先を促す。
そのまま先程法正にされたように、首筋に軽く吸い付きながら抱き寄せるように腕に力を込めると、頬に手をあてがわれて上を向かされる。
伏せがちの目にその意志を汲み取った徐庶は、彼に口付け舌を絡めて漏れる息遣いを堪能した。
そして、何気なしに上げた目線の先に。


「……………」
「……………」
「か、夏侯覇、姜維っ!!!」
「おわ!?っ、なんだ…、あ?」

がた、と勢いよく立ち上がったせいで、膝に居た法正がすっ転び、腰を打ったのかさすっている。
扉の小窓から死んだ魚のような目をしながらこちらを見る二人は、まるで生気がない。
徐庶が慌てて鍵を開けると、夏侯覇は腕に擦り傷を負っていた。
そういえば、彼らの組は今は体育だ。
グラウンドで何かの授業をしていたのだろう。

「あの、これはっ、その、っあああ」
「あんたら学校ですんなっていつも言ってんでしょ…なにしてんの…なにしてんの…ばかなの…」
「ああああもう、すいません、すいません、ごめんなさい!」
「全く、いつもいいタイミングだな、お前ら」
「法正先生が一番反省して下さいよ!!」
「なに泣いてんだお前、やりたくなったらやるしかないだろ」
「何その理屈!そんなの理屈じゃないよ!君それでも理系でしょ!そんなんだから俺は、あああ…」

恥ずかしさと後ろめたさで泣きながら夏侯覇の手当てをするさまは、端から見ても滑稽だろう。
夏侯覇はも手当てを受けながらはは…、と引きつった笑いを浮かべている。

「…法正先生、質問が」
「なんだ、姜維」
「やりたくなる、とはどういう時なのでしょうか」
「「おおおい何聞いてんだ姜維ー!!??」」
「今でしょ」
「「さらっと流行語使うなー!!」」



徐庶先生は恋をしている。
その噂は未だ消えず、段々と尾鰭を伸ばしていきながらも囁かれ続けている。

「徐庶先生〜、徐庶先生の好きな人ってガチムチでドMの奴隷系野郎ってほんと?」
「ガチムチってなんですか?徐庶先生はドSなんですか?恐縮ながら私も真実を知りたいです!」
「………。」



その月の保健便りの文末には、やけくそな字で私情での来室は当分禁止、とだけ書かれてあったという。


2014/01/17 16:07(0


 


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