君を死なせはしない

「死なせてくれ」


彼女は無感情にそう言った。死なせてくれ。彼女は再び口にした。

何かが物理的に彼女を阻んでいるわけでもなかろうに。そんなに死にたければ自分で手をかければいいものを。

死なせてくれ。笑みを携えて彼女はまた言った。ただ無感情に。


偽物の表情だとか、目に光がないとか、そういうありきたりな表現をするつもりはない。とにかく彼女は笑っているけれど無表情なのだ。心はすでに、事切れているんだろう。彼女の言っていることの正しくは、殺してくれ、だ。早く肉体も弔ってくれ。そう、言いたげな。

どうせなら、愛する人に殺されたい。彼女の口はそんな甘い台詞を吐いてくれるのだろうか。彼女は死にたいと言うけれど、自分はその言葉さえ聞ければ100年の歳月をも生きられるだろう。少しクサいけれど事実だ。

その細い首。絞めれば恍惚とした表情で彼女は逝くんだろう。その柔らかな身体。鋭利な刃物で貫けば艶やかな笑みを浮かべて黄泉の川へ向かうんだろう。その白い腕。毒薬を打ち込めば麻薬を摂取したような顔で死ぬのだろう。どれもこれも無感情に、だが。

全て自分が見たい彼女の表情。凶器に手を伸ばせば、すぐにでも自分に向けてくれることだろう。嗚呼、だからこそ自分はいつもこう答えるのだ。


「君は死なせない」


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