嘲笑

弟を殺され、絶望に満ちた俺を引き入れようと躍起になった柱間という男は、己の弟か己の死のどちらかを選択すれば力にならんでもない、と試した際、自らの死を選んだ。余程馬鹿な男である。

自己犠牲なんぞ何の役にも立たない。死は全ての終焉、最後なのだから夢が果てることになるというのに。柱間の夢は俺の弟を殺した戦の世を終わらせよう、というものだった。

馬鹿馬鹿しい。馬鹿な男にそんな馬鹿な夢が叶うわけがなかろう。お前などでは到底達成出来まい。いいだろう、と俺は癖のような嘲笑を浮かべながら協力を告げた。


俺が率いるうちは一族と柱間が率いる千手一族の結託の下、一つの忍の里を創設することとなった。二つの有力な一族が先導することあって、組み入る一族は次々と名乗り出てきた。

どうせ目指すならば、最も強くなければならない。幾つもの屍の上に立っている俺は、いつしか嘲るような笑み以外出来なくなっていた。


「ふざけるな!我々一族が貴様らに従えだと!?我らは誇り高き一族だぞ!?」
「我々の里はうちはと千手が率いる。どうしても従いたくないのであれば、我らを武力で抑えてみろ」


どうせ出来まい。俺の嘲笑に相手側の一族を頭領はぐっと押し黙った。

今や創設間近となった俺達の里に歯向かえる一族などいないも同然。理想へは着実に近付いているのだ。強き者が世を支配すれば、好きなように世界を操れる。つまり同胞が弟のように死することもない。ある意味で、これは世界への復讐のようなものだ。

頑なに従おうとしなかった一族の長が死んだと聞いた。自害した、と。それを聞いた時、俺は馬鹿だと罵りながら嘲笑った。当然の報いだ、と。


里を作り上げるにあたり、莫大な資金源と強力な後ろ楯が必要となった。最初から明白にわかりきっていたことだが、問題は誰が頭を下げるか、というところにあった。筆頭である柱間か俺か、なのではあるがとにかく馬鹿な柱間では不安要素が大きすぎる。俺は自尊心が傷つけられることに耐えられない。なんたって懇願すべき相手は同胞の死を知りながら、平気でそれを踏みにじり悠々と過ごしているようなやつだ。結局は俺が折れることになったのだが。

俺達があてにした相手とは一国の主、大名のことだ。悔しくもやつらの引き起こす戦争により忍が生活出来ていることは事実。しかしその巨額な資産を逆手に利用してやろうという魂胆だ。欺いてこその忍だ。


大名の居城とは俺の家など比べ物にならないほどの大きさだ。ここに居座り、俺達忍の犠牲を当然のように受け入れられていると考えると反吐が出そうだ。

俺達の里の要望に対応をしたのは、なんと大名本人ではなくその一人娘であった。随分と嘗めた態度を取られたものだ。薄暗く広い畳の部屋の上座に座していた女は俺のような長い髪を持っていた。膝に鞠を抱え、上品と形容すべき笑みを浮かべている。嫌いなタイプの女だ。

俺が要求を述べる間も女は笑みを浮かべたままであった。あまり口を開かなかったし、微動することもなかった。

その薄気味悪さに本当は人形なのではないかと思ったほどだ。最後の最後の「父上によう伝えておこう」という台詞に確かに人間だと思い直したが。役に立ってもらわねば困る。顔を伏せたまま俺は嘲った。


大名の娘は約束通り父親によくよく伝えてくれたのだろう。俺達は支援金を受け取り里の創設に至った。

様々な困難を乗り越えてきたものだが、大名への要求はその中でも大きな部類に入るであろう。形だけのものにはなるが、一度礼を述べに出向いた方がいいのかと思っていた日々のことだ。こんな噂を耳にした。


「大名様のご息女が亡くなられたらしい」


理由は定かではないが、自害したのだと。

あの人形のような女が死んだのか。あまり生きているようには見えない女であったのに。けれど当然の報いのはずだ。なんたってあいつらは俺達を踏み躙りながらあの城で幸せに浸りながら暮らしていたのだから。

しかしそれを聞いた時、俺はいつものようにざまあみろと罵りながら嘲笑うことが出来なかった。トントン、と目の前を鞠が転がっていった。


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