金によっても涙は流れる(1/1)


私に母はいない。
私を産んですぐ亡くなったのか、はたまた蒸発したのか、元々私はただの兵器で人ではないのか。どれが正解なのかわからないまま私は幼少期を過ごしていた。よくよく考えればまだ生まれて数年しか経っていない子供にそんな現実を教えるような父ではないので、知らなくて当然なのだが。

私には母はいないが、父がいた。
もうあまり顔を覚えていないが、優しい父だった…気がする。私と父の二人家族はスラムで暮らしていた。どこの国であったか、はあまりに幼かったので知らない。出身の国も、自分の国籍も、人種も、名前すらも。どれもわからない。まあ、あまり自分のことを知らないことを気にしたことはないが。


スラムで暮らしていた私と父は、金と毎日の食に困っていた。環境の問題なので誰に文句を言うことも出来ない。と言うよりも、毎日を生きることに必死だったので言う暇などなかった。食える時に食え、という教えはこの時父から教わった。

なんとかその日暮らしを続けていた私達だが、とうとう限界の日が来たらしい。ある日、父に連れられてスラムではないどこかに行った覚えがある。


「いいか。お前はこれからあの人達について行くんだ」


父の言う先には黒塗りの車の周りを囲む、これまた黒い服を着た人がいた…気がする。あまり覚えてはいない。

だが、その時の父が悲しそうな表情をしていたことと、私は売られたことを理解したのだということは覚えている。確か私は父の言葉に頷いたのだ。


「…すまない。こんな方法でしか、お前を生き延ばせられない父を…許してくれ……っ」
「お父さん。私なら大丈夫」
「すまない…っ!生きてくれ…私の、愛しい娘…!」


そうして私は初めのファミリーに売られ、父とはそこで生き別れることになった。

色々なことを忘れてしまった私だけれど、その時の父の覚悟ある瞳は忘れることが出来ない。



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