星の瞬き | ナノ

  形勢逆転A


広い草原に出た。爽快な空が見えるここは、いつも通りなら散歩コースに付け加えたいな、ぐらいに思えていたんだろう。

そんなことを思っていた間に九喇痲が帰って来た。置いて行かれてたのか、可哀想に。なんて思ってたら尾で叩かれた。懐かしい感触だ。


「多由也め、しくじったな」


君麻呂と二人、振り返った。


「よう…」


サスケがいた。もう追いついたのか。随分と早いこと。まあ予想はしていたのだが。君麻呂は苛立っているようだが。


「大蛇丸は何がしたい。ナルセを連れて行ってどうするつもりだ!?」

「大蛇丸様は“不死の術”を手にしている。全ての術を手に入れ、世の全てを手に入れるには永き時間が必要だ」


だが“不死”といっても肉体がそのまま保ち続けるわけではない。体が朽ちる前に強く新しい肉体を魂の器にする。

そして大蛇丸が己の器に選んだ存在がうずまきナルセ。


「ナルセ!お前はそれでいいのかよ…お前は死ぬってことなんだぞ!」


それでもナルセは返事を返さない。サスケなどいない存在としているようだった。

サスケは君麻呂と交戦する。骨を使う特殊な能力を持ったかぐや一族、その一族の血継限界に押されているサスケ。


「返事をしろ!おい!」

「死ね」


君麻呂は叫ぶサスケの背後に跳び、骨の刀を振りかざす。気付くのが遅かった。避けきれない。そう思った時一つの人影が君麻呂の体を蹴飛ばした。


「…誰だ」

「蘇りしは、木ノ葉の美しき青き野獣。ロック・リーだ!」


体はどうした、と尋ねるサスケに今はナルセのことが先決だと言う。リーの言うことにも一理ある。やつは骨を使うとサスケは告げた。


*****


暇だ。果てしなく暇だ。簡潔に言うと、君麻呂の病はもうない。言葉そのままの意味だ。体力はどうだか知らないが、いかにサスケが上手く立ち回ろうと、いかにリーが酔拳を使おうと君麻呂に敵うわけがない。

結果の見える戦いなんぞ見ていて楽しいものではない。九喇痲を抱えてその毛に顔を埋めた。獣臭い。


瞬間、砂の匂いが風に混じって臭った。小さな呻き声が聞こえたことで顔を上げる。


「誰だ」

「木ノ葉同盟国、砂の忍だ」


この場は離れている。けれど赤い髪が見えた。ああもうそんなところか。微睡みが生まれてきた。早く終わらないものかとイライラする。

砂と骨がひしめき合うが、そんなものに興味はない。早く、早く、早く。気が焦る。オレの気持ちを感じ取ったのか、九喇痲が顔を覗き込んできた。

呪印状態2の君麻呂が木の幹に寄りかかっているオレの目の前に転がって来た。


「まだ終わらないのか」

「…あなただけでも先に行ってくれれば」


そういうわけにはいかないからここで待っているというのに。


「サスケ!」「我愛羅!」


声から察するにシカマルとテマリが追いついたようだ。大人しく里に帰っておけばよかったのに、と冷めた考えを持つ。


「五対二だ。何とか間に合ったってとこか」


シカマルが勝利を確信した顔でそう言った。随分余裕な態度を取ってくれる。ピクリと片眉が動いた。詰めが甘いやつだ。


「遅れた」


間を見計らったのだろう。オレの前に三つの影が立つ。

向こうの人間はさぞかし驚いたことだろう。オレとて何の準備もしてない、なんてことなないのに。これで人数は五分五分。実力差は計算に入れてないから、形勢は逆転。


「…何持って来てんの?」

「まだ息があったようなので仮死状態にして拾って来ました」


素晴らしい笑顔で白は言った。そんな捨て犬を拾って来た、みたいなノリで言われてもだな。

ドサリと三人はその場に千本が刺さった状態の音の四人衆を投げ捨てる。波の国でのどこかのうちはさんの状態と同じだな。


「いつか利用できる時が来るかもしれませんから」


冷静にそう述べるハヤテくんは幼い忍には恐ろしいものに見えただろう。そもそもなぜこの三人がここにいるのかわかってないのかもしれない。

どうやら綱手様は戦争回避を優先させたようだ。無理にでも中忍や上忍を組み込めばよかったのに。


「ついこの間、一人の忍が死んだ。カナデという男だ」


誰に言うわけでもなく、ポツリと呟いた。


「オレはな、里に、忍に失望したんだよ。あいつは任務で死んだ。木ノ葉があいつを殺した」

「だからってなぜ!」

「大蛇丸のところに行くのはもっと強大な力を得るためさ。オレの目的のために」

「目的?」


「この世界を壊す」


そう言って顔を上げて向こうを見据えた。青い瞳はガラスのように瞬いた。五人は本能が動くままに震えた。あれは危険だと。


「【妖遁 雪女 氷柱牢】」


つながりは断ち切った方がいいくらいだ。甘えはいらない。

吹雪が吹き荒れる。妖遁、という言葉に反応する間もなく宙にできた複数の氷柱が地に突き刺さってできた檻に、サスケ以外の四人が閉じ込められる。

オレの隣に姿を現した雪女が言葉その通りの凍りついた笑みを向けた。


「お前…なんで妖遁を!?」

「お前はこの中で一番付き合いが長いからな、一度だけチャンスをやろう。仲間を見捨てるか、オレを追うか」


どっちを選んでも楽しそうだ、とナルセは笑って再不斬、白、ハヤテ、そして君麻呂と森へと駆けって行った。

早く追わなければ、もう国境まで距離がない。けれどこのまま仲間を放って行くわけにもいかない。追い詰めたつもりが、逆に追い詰められた。


「!…チクショウ!」

「サスケ、オレ達のことはいいからナルセを追え!」

「けど!」

「うちはサスケ」


我愛羅の静かな声がサスケを制した。思わずサスケは黙って我愛羅の方を向く。


「…悔しいが、今回ナルセはお前を選んだ」

「……」

「早く行け」


拳を握り締めた。ここまで来て敵前逃亡というわけにはいかない。我愛羅の言葉にはそう続きがあったようだった。

躊躇いながらもサスケはその場を後にする。四人はその背を見送って檻から脱出するための作戦を練り始めた。


立場は変わる
(悪戯に変える)


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