星の瞬き | ナノ

  生き残るための約束


のんびりまーったり三代目のじーさんとのお茶会。時々催す祖父と孫の団欒の場。心がほっこりする。ぽかぽか陽気な日が心地よい。えへへとだらしない笑みが何度かこぼれた。

お茶を飲みながら抹茶味のムースを頬張る。うん、手作りだけど中々美味しく出来上がったみたいだ。


「のぅナルセ、女子に戻りたいとは思わんのか……?」


む、とじーさんの顔を見返す。じーさんはどこか思い詰めたような顔をしていた。


「今更何言ってんのさ。約束は15までだろ?せめてその歳にならないと自分を守れないと決めたじゃないか」


もう八年前のことになるのか。じーさんと結んだ約束。15になるまで男の格好をして過ごすこと。

今までその約束を忠実に守り続けてきた。自由に生きられない代わりに身を守るために。オレが生き残るためには仕方なかった。


「じーさんとオレは共犯者なんだぜ?戸籍まで改竄して。15になったらリセット、なんてさ」


年頃になれば体のラインを誤魔化すのにもつらいところがある。15までが限界だとじーさんと話し合った結果がこれだ。

くるくるとそこだけ伸ばしたサイドの髪を指先でいじくる。


「別に女を捨てきってるわけじゃないよ。いずれ元に戻れるって知ってるから、こうして未練がましくサイドだけ髪を伸ばしてるんだし」


はぁ、と何だか気が重くなってきて溜め息を落とした。そっとお腹を擦る。そこにあるのは自身に刻まれた封印式。小さく九喇嘛が反応した気がした。


「九尾をオレに封印したのは正しかったのか、間違いだったのか」


オレが男であれば男の姿をしなければならないと悩む必要もないし、封印が解けるようなことを懸念する必要もない。全くもって不便だ。


「大体何?わざわざ人に聞かせるような真似して」


そう言うと同時に背後の木陰に手に持っていたスプーンを投げた。がさりと枝が擦れる音がして一つの影が現れた。

オレと三代目のじーさん、二人して背後を振り向く。そこにいたのは申し訳なさそうな顔をしたカカシ先生だった。今のできっとカカシ先生はオレが実は女だってことを確実に知ったはず。


「カカシはお前の世話係だった。薄々気付いとったはずじゃろ」

「さあね。誰がオレの世話係だったかなんて一々覚えてない」


重い溜め息をついたじーさんはじと目でオレのことを見た。


「カカシよ。このことは勿論他言無用ぞ」

「……はい」


気まずそうに先生は眉を下げつつ返事をした。

ま、先生に知られたからどうなるとかはないと思うけれど。状況は変わらないだろうな。カカシ先生もどうですか?と席を詰める。遠慮がちにカカシ先生はそこに腰を下ろした。


「三代目、これは…その…」

「知らない方がいいってこともあると先生ならわかりますよね」


口を割ったカカシ先生に言葉を返したのは名指しされたじーさんではなくオレだった。忍であるのだ。そのくらいわかれと言外に伝える。


「知らないままであればこんな後悔しなくて済んだのに」

「これナルセ」


じーさんの戒めを聞き流し、横目でカカシ先生の目が泳ぐのを確かめる。そうだね、これはささやかな仕返しのつもりなのかもしれない。確かに大人気なかったのかもしれないと遠くをぼうと見つめた。

それにしてもオレもくだらないことを言ってしまったもんだ。男だ女だ、そんなことは関係ないのに。ただ、たまたまそう生まれついてしまっただけ。たまたま、なのだから気にしても解決することはないのに。


「先生の後悔の焦点はオレがありのままに生きられないことじゃなく、何もしなかった自分を戒めて慰めるところにあるんだろう?」


ぐっとカカシ先生は唇を噛んだ。その様子を見てじーさんが本格的にいい加減にしろ、と穏やかにオレのことを叱りつける。申し訳なさそうな振りをし、肩を竦めて「気にしなくていいんじゃなーい?」と言った。


「今更どうこう言うつもりもないし、興味もない」


この言葉でこの話は終了。そういう意味合いを含めて湯呑みを傾けた。

三代目のじーさん、カカシ先生に挟まれつつお茶をすする。「のぅ、ナルセ」とさっきの話に触発されたじーさんがオレの名前を呼んだ。


「わしは良い人間じゃろうか?」

「良い統治者とは言えるけど、良い父親ではないな」


質問に即答した。さらに一時期不良になったアスマがいい例だ、と付け加える。飾りのない直球の評価はヒルゼンに大打撃を与えた。

そう、大きな分母体にはじーさんは良き人ではあろう。それは三代目火影として慕われたことからよくわかる。だけどそれは多くの人にとってであって個人にとってではない。


「この両手にすくえるものは限りなく少ない。じーさんは今まで一体どれだけの粒を零した?」

「さあ、数えきれんのぉ…」


そう、知らないところでも粒は零れる。完璧に数えることなどできない。不可能なのだ。カカシ先生の「仲間」がいい例であるように。


「それでも救わずにはいられない…なんてね」


この手にすくえるもの
(オレはいくらすくえる?)


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