誘いに導かれるまま
「カブトの言ったことなんざ信用したかねぇが、微かだかあの方向から確かにナルセの匂いがする」
「早くしないとナルセの匂いが消えちゃう!」
逃がしてたまるものか、と森を駆ける捜索隊の足は速む。
「ど〜〜も〜〜っ!」
男が突然進路に現れた。オレンジの面を付けた男だ。その唐突さに先頭を進んでいたサスケは驚き身を下げる。小隊も動きを止めた。
「ははは、いやいやいやどーもどーもどーもっす!こーんなところで木ノ葉の皆さんにばーったり」
突然道を塞いだオレンジの面の男、トビはテンション高めに話す。彼の着ているものに隊は注目した。
「しかも二の四の六の……九対一とは、間の悪い。はは、ははははは」
「その衣、お前も暁のメンバーだな」
ヤマトの言葉にカカシは記憶を探る。
「こいつは、カブトの残した暁のリストには載ってなかったが」
「あっは、新人なもんで。どーもよろしく」
トビがカカシの呟きに答えるように言った。と同時に赤丸が吠える。
「へっ!ふざけやがって。余裕かましてんじゃねえ!」
「迂闊な動きはするな。まずは様子を見る。数は圧倒的にこちらが有利なんだからな」
「あららー?なめられちゃってます?ぼくのこと」
忠告をしたカカシを逆に観察するようにトビは見た。
これが暁か。シノの呟きにサクラはまた変なのが、と心の中で思った。ナルセはすぐそこにいるのに。また邪魔をされてしまうのかと。
「ん?」
「邪魔をするな」
フェイントをかけたサスケの攻撃がトビに炸裂する。「うわぁあ!」トビは叫んだ。が、なぜか手ごたえがない。
「なーんてね」
「(すり抜けた…?)」摩訶不思議な現象にサスケは首を傾げるものの、そのテンションの鬱陶しさにトビを睨み付けた。
「…気を付けて。あまりなめてかかっちゃいけない相手デス」
慎重に、かつ怯えるようにリアナは隣のサクラに忠告した。リアナ?とサクラが呼び掛ける。
「おっとぉ!そっちのお嬢さんはぼくのこと知ってるみたいっすね!でもこっちも知ってますよ。確かある可能性を知っている、んですっけ?」
仮面から垣間見えそうになった瞳に、リアナはヒッと竦みあがった。それを確認したのかしていないのか、トビはあはは!と笑って大仰に腕を振り上げた。
「さてと、何して遊びましょうか、木ノ葉の皆さん?」
「テメェなんかと遊んでる暇はねぇ」
「その通り」
「なぜなら、ナルセをさっさと追わなければならない」
赤丸が相槌を打つために吠えた。「シノ!お前は前回のナルセ奪還任務は不参加だったからなぁ。今回は頼むぜ」「(つながり、か)」各々の考えがまとまる。
皆、さっさと終わらせよう。そう言ったカカシはヤマトと頷き合う。
「フォーメーションBで行くよ、皆!」
「おう」「はい!」
「おおっ!なんだか本気モードっすねぇ!こっちも気合入れなくちゃ!」
遊ぶ気満々のように、トビは体をしならせた。
まずサスケがトビに襲い掛かる。「げぇ!囮に気を取られてるうちに三人で囲むつもり?これじゃどれを躱したらいいかわからないよ!ちょちょ、ちょっとそれってずるいでしょぉ!?」「よそ見してる暇はねぇ!」それを皮切りにサクラ、キバ、赤丸も攻撃を仕掛ける。
「三対一だなんて、木ノ葉の卑怯者!…ん?って、ぎょぎょぎょー!囮じゃなかったのー!?やられ」
上空からサスケの千鳥が向かってきた。今度こそ確かに当てた。そう思ったサスケは姿を確認しようとするが、トビがいない。
「ってなーい!」
地表から勢いよく飛び出したトビはサスケに砂を撒いた。そのままカカシ達の前へと移動する。
「まったくぅ、皆でやるぅ、なんて言っちゃって。信じちゃったじゃないですかぁ!」
「皆止まるんだ。散り散りになって強行突破だ」
「あちゃー!え!?うわ、えっと…!ににに忍法、ああもう!」
戸惑いながらトビは地中を進み、小隊のそれぞれの目の前に現れて小枝を振り回す。
珍妙な術である。なんだこの術は。カカシがそう言った時だった。トビが地中から現れた。
「うはー!閃いた!この術は【忍法 もぐら叩きの術】と名付けよう」
「…叩く側と、叩かれる側が逆だけどね」
トビとは正反対のテンションでカカシはツッコミを入れた。ヤマトがカカシに走り寄る。
「先輩」
「ああ。こいつはマジで倒していかないと、先に進ませてくれないようだね」
クソッ、とサスケが不満を零す。
「ねぇねぇねぇ!次は何して遊ぶ?」
無邪気にトビは言った。
こんなところで、足止めを食らってる場合ではない。立腹したサクラに、次は戦闘フォーメーションAで、とヤマトが指示を出した。
まずキバと赤丸が走り出す。その次に手出しできぬようにヤマトが木遁の術の印を結んだ。地面から生えてくる木をトビはなんとか避ける。
「牙通牙!」
キバを目隠しに、サスケがキバの背後から千鳥を向ける。「げげげー!」慌てるようにトビは叫んだものの、再びその千鳥はすり抜けた。
「もらった!」動きを止めたトビをヤマトは木遁を使い、首を挟むようにして捕まえた。
「く、くく苦じい!」言葉の通りトビはもがいた。なんたって首を押さえられているのだ。そのまま拘束しようとする。もうあと一手、というところでトビの体が消えた。
「っ!馬鹿な!」
「ぼくって体が柔らかいのよねぇ」
立っていた枝の、ちょうど真下に逆さ吊りにトビは飛んだ。ふぅ、と息を吐いてトビは首を回す。
「こうなったら反撃だ!秘術!」
異様な印をトビは結んだ。退け!とカカシが指示する。
「エリマキトカゲ!」
ぷらん、とコートが垂れ下がった。沈黙が場を包む。
「あはは。えっと…この術はこれまでです」
「ふざけやがって…!」
笑えない冗談デス、とリアナが厳しい呟きを零す。グサリ、とトビの心に突き刺さった。めそめそと泣き真似をし出す。
「サスケ、オレ達のフォーメーション攻撃、タイミングはばっちりだったよな?」
「ああ」
「確実に当たってるはずだぜ。なのになんで躱されちまってんだ」
サスケは状況を冷静に思い返す。
「当たっていた」
「ん?」
「オレが最初に千鳥で攻撃した時も、その次もそうだった。攻撃の軌道には確かに入っていた」
「つまり。やつは躱したと見せかけて、実は躱したのではなくお前を術ごと自分の体をすり抜けさせた。そういうことか、サスケ?」
「ああ、その通りだ」
分析組の考察にキバはわかってない素振りを見せた。サクラは残念なものを見る目をキバに向け、自身も考えを述べる。
「分身か何か。それとも映像や幻影を見せる幻術の類かも」
「わ、私もそう思って白眼で視野を広げて、周囲のチャクラを感知してたんだけど。やっぱりあの人のチャクラはあそこに一つ存在しているだけ」
「あーらよっと!」その間にトビは枝の上に移動した。
「(すり抜ける。通りで…。)カカシ先輩、どう思います?」
「間違いない、あれはやつだけの何か特別な術だ。こうなると厄介だな。シノ!」
「わかっている」
返事をしたシノの体から蟲が蠢く。
こういうパターンではシノのような秘術系が役に立つ。カカシは状況を的確に判断していた。
「うひゃぁあ!きみ油女一族か!?うじゃうじゃキモいなぁ、もう!」トビは完全に引いている。傍にいたリアナもドン引きだ。
「へっ。シノ、珍しくやる気じゃねえの」
「当たり前だ。なぜなら、前のナルセ奪還任務の時は仲間外れだったからな」
シノはいつまでも根に持っている。仲間外れにされたことを許しはしない、とネチネチとした女のように持ち続ける。
「行け」シノの指示に蟲がトビを襲った。キモイキモイと言いながらトビは避ける。
「散れ」
広範囲に蟲がトビを覆った。逃げ道は完全にない。
「え?あれ?」
「あれで逃げられない。蟲を全て躱すことは不可能だ」
「躱しているのか、すり抜けているのか。あいつの術を見切ってやる。やれ、秘術 蟲玉」
見る見るうちに蟲が集まっていく。
「ちょ、ちょっとー!?う、うわぁ!!」
「オレがきめる。なぜなら、任務に参加している以上今回こそは役に立たねばならない」
「ったく、まだ根に持ってんのかよ」
「ひ、ひいぃいい!ぅ、うわぁあああ!」
集まり固まった蟲達が人型を取った。ヒナタに確認を取ったところ、確かにあの中にトビは存在している。
続けてヤマトが木遁を向けた。これで蟲を払っても、ヤマトの木遁で拘束できるというわけだ。
「いつでも攻撃できます」
「どうなの、シノ」
「手応えは感じる。なぜなら、奇壊蟲がチャクラを吸い取っている、活発な動きが見て取れる」
と、シノが何かに気付いた。どういうことだと呟く。唐突に蟲が散乱した。不気味な空気が漂う。
「チャクラに反応していた蟲が、突然やつを見失った。ありえない」
「瞬身の術?」
「いや、瞬身ではない。なぜなら、もし瞬身なら蟲達はやつが飛んだ方向へ反応して動くはず。逃しはしない」
あの状態で時空間忍術を使ったということか。いや、そんなことはありえないとカカシは考える。
突然消えた。ヒナタはそう言う。
「体全体を消した!?やつは存在を消せるってのか?」
「そんな…。でも、自在に姿を消せると仮定すれば体の一部分だけを消せたとしても不思議じゃない。だとしたら、体に当たるであろう外的攻撃もその部分だけ消すことも。そうすれば攻撃をすり抜けて見える」
「やはり攻撃は躱されていたわけじゃなく、やつの体をすり抜けてたってことか」
ヒナタは周りに集中する。赤丸は警戒をした。
赤丸が吠えた。「っ、見つけた!あそこ!」ヒナタが指を差す。
「やあ、どーもどーも!」
トビは余裕そうに手を振っていた。
「オレの鼻から逃げられっと思うなよぉ!」
頭上から通牙。一直線の攻撃に、トビは一歩で避けた。
「こらキバ!一人で無茶しない!」
地面に直撃したことにキバは目を回す。
「あ、また、すり抜けられたか…くそ…」
「キバ君…。今のは単に躱されただけだと…」
「……ダサいデス」
呆れたように赤丸が鳴いた。
その時、トビの傍らから地面から生えてくるように何かが現れた。何かあった?とトビは声をかける。
人間とは思えないその異形に、サクラは何だと呟いた。確かカブトの残した暁のリストに載っていたはずだ。
「ナルセから伝言だよ。いつまで遊んでるつもりなんだ、ってね」
「ひゃー!怒られちゃった!」
トビは両手を広げておどけた仕草をとった。「…なーんてね」
「自分の不手際のせいでこうなったと言うのに」
突然に声のトーンが変わった。その低い声にリアナが再び体を震わせる。
「っ!また何か来ます!」
何かの気配を感じ取ったヒナタからの言葉に緊張がほとばしる。しかも早い、とヒナタが付け加えた。
素早い動きでトビの隣にもう一人、誰かが降り立った。
「こいつは…干柿鬼鮫」
「どうもこんにちは、木ノ葉の皆さん。薬師カブトの次は私達の招待状を受け取ってもらいたくってね。特にそちらのお嬢さんは強制的にいらしてもらいましょうか?」
鬼鮫は鋭い歯を見せびらかしてリアナのことを指差した。サスケがリアナのことを庇う様にして前に出る。
「誰からの招待状か聞いておこうか」
「それはもちろん、あなたのお兄さんのイタチさんからですよ」
ピクリ、とサスケの肩が微かに上下する。
小隊の本来の目的はうちはイタチの捜索、および拘束だ。それがまさか標的から接触を謀るとは。悪くない話だと思いますけれど。鬼鮫が言う。
「…行きましょう」
「リアナ!?」
「多分豪雨でナルセの匂いは消えています。それに無理に追おうとしたら、あの人が執拗にあたし達の妨害をします」
「おやぁ?お嬢さんは頭も回るようですねぇ」
確かに言われる通りである、と全員の心が傾きかけたところ、ゼツが来た時と同じようにして退場していった。最早隊の考えは一致したも同然である。
「うちはサスケ、お前に少し興味が湧いた」
仮面の男は戯れに捨て台詞を残して、これまた特有の術で姿を消していった。男の放つ威圧は相当のものだったようだ。少しだけ空気が和らいだような気がする。
さて、と鬼鮫が注目を集めた。
「それでは行きましょうか。イタチさんが待っている場所へ」
状況はオスティナートに
(よっ、遅かったじゃねぇの)
(…お前が偉そうに説教するな)
(うひゃ!な、なにふふんはよ!ほほをふはふな!)
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