昔話A
そのまま私とリアナは親友同士という間柄になった。成り行きと言えばそうだが……何か、そう、運命のようなものを私は感じ取ったのだ。
「ナルセ〜、見てください。今回のテスト、散々でしたぁ…」
「だからあれほどアニメの見過ぎに気を付けろって言ったんだ」
リアナの手には20、30といった数字が書かれた答案用紙が。一方ナルセの手には80、90といった成績優秀な数字が。
「ムキー!どうしてナルセはそんなに頭がいいんデスか!?」
「ほら、私って努力家だから。毎日少しずつ勉強してんのさ」
ふぁさあと髪を払うナルセ。そんな嫌味な行動にリアナはさらに怒る。
ナルセは優等生であった。生活態度も、成績も優秀で教師からの信頼も厚かった。素面の状態は難ありと言えるが、彼女は優等生の振りが大変得意だった。
リアナもナルセと比べると若干劣るところが多々あるが、成績が優秀でないわけではなかった。
ナルセとリアナが通う学校は一応進学校として名が通っている学校に行っている。そんな学校に通うのであるのだからリアナも頭が悪いわけではない。
そう、怠け癖があるのだ。
「だーかーらー、とっととその怠け癖を直せっての。大学受験に間に合わないよ」
「うぐっ!…ま、まだ先の話デスから……」
「とか言うやつが落ちるのが大学受験だ」
ぐはっと胸を押さえてリアナは俯いた。ナルセの意識が高すぎることもあるが、返す言葉もないとはまさにこのこと。
ふときゃーきゃーと甲高い声がした。ナルセはその方向へと顔を向ける。
「ほんとないよね、オタクって!」
「理解できない文化ってまさにこのこと」
「言えてるー!」
耳障りなその会話にナルセは爪を立てて拳を握りしめた。歯を食いしばり、忌まわしい人達を睨みつけた。
「ナルセ、そういうのは止めたほうがいいって言ってるじゃないデスか」
ナルセの行動を見かねたリアナが声をかけた。ナルセは憎しみに染まった顔でリアナを見返した。
「なぜ?あいつらは私が好きなものを侮辱した。許せるはずがない!」
「でも、ひがみ合うのって疲れるじゃないデスか」
激昂したナルセとは反対にリアナは冷静であった。
感情に身を任せるのはリアナの方だと思われがちだが、実際はその逆。ナルセのストッパーがリアナであった。
「別に憎むのが悪とは言いません。でも何も変わりませんよ?憎しみが何か生みますか?」
リアナの言葉にナルセは落ち着きを取り戻していく。握りしめていた手の力が緩んでいく。
「世界には色んな人がいるんデスから、合わない人がいて当然デス。代わりに喜びはいろんなことを生みますよ!愛とか、嬉しさとか、幸せとか!」
「…うん、そうだね。ごめん、またどうかしてた」
「わかればいいんデス!」
にこっとリアナはナルセを安心させるように笑った。
毎日が幸せだった。リアナも、ナルセも口を揃えてそう言う。他人から見れば決して至福の時ではなくとも、自分達にとってはこれが至福なのだと。
けれど残念なことに、神様はそんな彼女達の日々を引き裂いた。
「ナルセが…死んだ…?」
唐突に告げられた不吉なことにリアナは気が遠くなった。信じられないことに口元が歪な形をとる。
嘘だ、嘘だと言って欲しい。
今日だって一緒に過ごして、一緒におしゃべりをして、いつものように一緒に帰ったのだから。
しかし現実とは残酷なものだ。母はひどく残念そうに頷いた。
「っ、そんなわけない!だってさっきだって!また明日って…!」
叫んだつもりだった。しかし口からは嘆くように吐き出されただけであった。
ナルセは事故で亡くなったらしい。信号待ちをしていたところをトラックに突っ込まれたらしい。
どうして、なんでナルセが
嘘だ。嘘うそウソ嘘嘘嘘ウソ嘘うそ。だってついさっきいつも通りに別れたばかりじゃないか。そんなことがあるはずがない。あってはならない。冗談はよしてよ。笑えない冗談なんていらない。止めてよ。折角できた幸せを壊さないでよ。あたし達の日常を返してよ。止めて止めて止めてやめてやめてやめてやめてヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ!
母の言葉が右から左へとすり抜けて行く。
「お通夜は今夜だそうよ…」
いつも明るく輝く電灯が切れてしまったのか、部屋が暗く見えた。
もう戻ることのない日々
(強がって見せてるけど、本当は…)
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