short novel | ナノ
ツインテール


「ツインテールがいいなあ」
 ファッション雑誌をめくりながら彼は言った。暗に「ツインテールにしろよ」と言っているのだろう。チラチラと雑誌の隅からこちらに視線が送られる。
「いやよ」
「いーじゃん。かわいくね?」
 ほら、と可愛らしいツインテールのモデルを指す。それは可愛い子がやるから可愛いだけである。人には合う合わないがあるのだから、なんでもかんでも似合うわけがない。
「その子が可愛いだけでしょ。それにめんどくさいのよ」
 ボサボサの髪の毛をいかに綺麗に二つにまとめるか、それが重要なことでもある。低い位置ではおさげになってしまうし、高い位置に上げようものなら癖っ毛の髪があっちこっちにはねる。余った髪の毛も気になるのでそれもどうにか固めたりヘアピンで止めて隠したくなる。そこまでやるのが面倒なのだ。
「なんのための長い髪なのさ」
「冬に暖をとるためよ」
「夏は暑いじゃん」
「夏はあげるか、切るわよ」
「えー、もったいない」
 もったいないと言われても、あまり髪に思い入れはないので、躊躇なく切れてしまう。冬はあったかいが、夏は暑いだけ。冬のために我慢するのも面倒なときは、切ってしまったほうがはやいし涼しいのだ。
「そんじゃあさ、俺が結ぶなら文句ないでしょ?」
「はあ? まあ、全部やってくれるならいいけど」
 櫛とヘアゴムを渡すと、彼は鼻歌交じりに髪を束ね始めた。櫛ですいて半分に分ける。高い位置で少しずつはみ出た髪を束ねた。
 髪を触る手の感触に浸っているうちに、ツインテールは完成したらしい。どうよ、と誇らしそうに鏡を手渡された。
「けっこう上手にできたと思うんだけど」
 上手い。私が結ぶよりも上手い。結ぶとハネが目立ってしかたない髪がまとまっている。櫛とヘアゴムしか渡していないはずなのに。
「いいでしょいいでしょ。ほら、笑って」
 シャッターをきる音がした。それも、何枚も。連写だと気づいた頃には、満足するほど撮り終えたようで顔が緩んでいた。
「消しな」
「こんなレアな写真消せないよ。フォルダつくって永久保存ですね」
「やめろ」
「こっわ! やーだね。消して欲しいなら一週間ツインテールね」
 やらないという確信を持って言っているのだろうが、甘い。
「いいわよ。その代わり、一週間あんたが結んでよね」
 面倒だから結ばないだけであって、恥ずかしいわけではないのだ。悔しそうに彼がケータイと私を交互に見ている。
「結んでやろーじゃん! その代わり毎日写メるからな」
 そう捨てゼリフを吐き、逃げるように彼は出て行ってしまった。
 明日からはいかにケータイを借りて写真を削除するか考えなければ。

END
(初:2014/02/02)
(2016/03/09)


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