冬と布団と
部屋の中は真っ暗だった。でも、暖かいのはきっとさっきまで起きていたということ。
音を立てないようにドアを開けると、ベッドの端でくるまっている彼。そんなに端にいかなくてもいいのに。
そっと扉を閉めて、寝巻きに着替える。いくら疲れているとはいえ、スーツのまま寝るのは気が引けた。何より寝るときくらいは楽な服がいい。
冷蔵庫の中には晩飯だったであろう野菜炒めがラップをしていれられていた。レンジで温めれば食べられるだろうが、あいにく腹は空いていない。朝食べることにしよう。
裸足で歩く床は冷たい。いくら部屋の中が暖かくても。すっかり冷え切ってしまった足で寝室に入ると、布団もすっかり冷えてしまっていた。
寒い寒いとすり合わせながら布団をかぶると、彼がそっと寄ってきた。
「ただいま」
「おかえり。飲んできたわりにはけっこう冷えてんね」
「床冷たくて」
ふーん、と関心なさそうに頷いているが、彼の足が冷たい足を挟んで温めている。少しずつ熱を持ち始めたつま先がジンジンと痺れる。
「そういうお前も布団で包まってたわりには冷たいんだな」
足は暖かいが、手は冷たい。自分の手も温かいとは言えないが、彼ほどではない。
「手が冷たいと心があったかいで言うじゃん?」
「ほう? じゃあ、俺の心は冷たいと」
「手をあっためてくれる人が冷たいわけないだろ?」
「それもそうか」
お互いに冷えたところを包んで温める。それ以上のことはせず、ただゆっくりと温まるのを待った。
「もう一枚くらい毛布が欲しいな」
「いいねえ。今度買いに行く?」
「ああ、今度な」
いつ守られるかもわからない約束を交わすと、心臓の近くが痛くなる。一緒に出かけられるのは年始くらいだろう。
「それまでは今日みたいにあっためとこうか?」
「お前がいいならな」
「ただ待ってるのも暇だかんね。布団もあっためとくよ」
それまで。約束の日までは、こうしているのも悪くない。
彼の体温はゆっくりと眠りを誘った。
END
(初:2013/12/05)
(2016/03/09)