創作BL | ナノ
断罪した日


 街から『悪』が消えた。人々は『悪』を消した勇者に拍手と歓声を送る。怯える日々から平和な日々へ。
 勇者の足元には真っ黒に焦げたボロボロのロボットと、目を覚まさない青年。ロボットの中から溢れた赤い液体は、青年の真っ白な白衣に赤いシミを作った。
 「ありがとう」という歓声に勇者は笑って手を振る。
「あたりまえのことですから」

 エルスは兄の椅子に腰掛けて、部屋全体をぐるりと見渡した。使われなかった大量の鉄屑とネジ、ボルト、使い込んだ工具。あちこちに散乱しているが、これで兄はどこになにがあるのか把握しているのだという。
 いつもドアの隙間から覗いていた頃とは違い、部屋の中はとても広く感じた。暗い中で接合していたり、ボルトを締めている姿を見たときは、あんなにも狭く感じたのに。
(この部屋は残しておこう。まだ、ここには兄さんがいる)
 エルスはそっと部屋の扉を閉めた。消してしまわないかぎり、あの部屋にはずっと兄が居続ける。
 兄がいないところを家中歩き回って探した。どこも兄がひょっこり顔をのぞかせて、なかなか見つからない。ようやく見つけたのはエルス自身の部屋。ここに兄を入れたことはなかった。
 機械を中に入れ、作動させる。円柱形のガラスの中で真っ白い肌の青年が眠っていた。
「兄さん」
 エルスは愛おしそうにガラス越しに彼を見る。手を絡ませたくともガラスが邪魔で手のひらを合わせるだけ。呼びかけても返ってこない。それでもエルスは兄さんと繰り返した。

 エルスの兄は発明家だった。ただし、それはエルスがヒーローになる前の話。
 始まりはただの人助け。そこからは人数が増え、規模が拡大し、気がつけば全人類を守らなければならなくなっていた。
 なぜ守らなければならないか。なにから守るのか。それはもちろん、『悪』を葬るため。立ち向かう敵をバタバタと倒していく。
 ようやくすべての敵を倒し終えたとき、黒幕が兄だと判明した。壊れたロボットの中から真っ赤な血をこぼしながら兄は出てきた。引きずり出されるような形でた。
 街はすっかり平和な世界になったと思っている。『悪』は消えたのだとおもっているのだ。たしかに消えた。このてで消した。
 しかし、なんの進展もしていない。『悪』が消えたところで、滅びはしない。
 こっそり持ち帰り、エルスは毎日兄に懺悔する。神に祈るように。許しを乞うように。
 ビー、とけたたましい音をたてて出動の合図が自分の腕時計が知らせる。
 名残惜しそうに絡まない手を重ね、重ならないくちびるを合わせる。
 静かに部屋を出て、エルスは走った。滅びることのなかった『悪』を滅ぼすために。そして、兄の目的を知るために。

END
(初:2013/11/23)
(2016/03/09)


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