おかしなはなし | ナノ
雨男と甘味男


 まさか、雨が降るとは思わなかった。出かけた先で前触れもなく降りだした雨に、傘もなく軒先を借りて雨宿りするしかない。
 空があまりにも明るく、雲一つないから安心しきっていた。しばらく止みそうにない雨をじっと睨む。あたるところが見当違いだ。それでも、変化する空模様を眺めていないと落ち着かなかった。
「吉慈郎じゃないか、どうした?」
 声のほうへ視線をやると、赤い唐傘をさした男が右手を軽くあげて寄ってきた。もしかして、この雨もこの男の仕業ではないだろうか。
「傘がなくてな、雨宿りしてるところだ」
「それはそれは。運が悪かったな」
「まさかお前が降らせてるんじゃないだろうな」
 大きく目を開き、「まさか」と答える。そして、自然現象の全てを自分のせいにされても困る、と続けた。
「傘がないなら使うか?」
「いや、お前が濡れるだろ。止むのを待つ」
 見たところ通り雨のようだから、しばらくすれば止むだろう。それくらいなら待っていられる。
「しばらくは止まないよ」
 にこりと笑って言う彼に、嫌な予感がした。自然現象の全てを引き起こしているわけではないが、彼は呼び寄せることができる。
「まさか」
「なんのことだ? それより、夜まで止むのを待つつもりか?」
 傘を使え、ということらしい。使って欲しいのなら押しつければいいのに。雨を長引かせるのは少しやりすぎだ。
「ありがたく傘を使わせてもらうよ」
 差し出された傘を掴む。しかし、彼はいっこうに傘を離さなかった。
「まさか一人でこの傘を使うつもりじゃないだろうな?」
「そうじゃないのか?」
「違う。一緒に帰るんだよ」
 まさか、男二人で相合傘とは。女二人で並べば華もあって可愛らしいだろうが、男二人がならんだところで広い肩幅が場所をとって互いに肩を濡らすだけだ。
「あんみつが食いたくなった。まだ材料あるんだろう?」
 この男は何の用事で出かけたかわかったうえで言っているらしい。足りない材料を買いたしたというのに、また会に行くことになりそうだ。
「黒蜜は?」
「もちろんたっぷりで」
「じゃあ、材料濡らすなよ」
 にこりと笑って、彼は傘の中に引き寄せた。材料の入った包みは、雨がかからないよう内側になるように。

END
(初:2013/10/21)
(2016/02/14)


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