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 みじかいものまとめ。

87 星に焦がれた末路
「ほら、レバーを押してごらん」
 肩に乗る鳥が囁く。悪魔のような甘言に絡め取られて体が言うことを聞いてしまう。
「押せば、どうなるの?」
「わかりきったことだろう? 星が降るんだよ」
 星のない夜空に星を返すために僕はここまで来た。けれど、レバーは黄色と黒の危険を表す色をしている。
「本当に降るの?」
「降るさ。ずっと奴らはここで星を独り占めにしていたんだから」
 月に星は閉じ込められた、と鳥は言った。暗い夜空が怖くて、星を逃がすために旅をしたのに。今さら何が怖くて戸惑っているんだろう。
「どうして星を閉じ込めたのさ」
「綺麗だからさ。自分以外に見せないようにボクらから奪ったんだよ」
「今さら?」
「今更もなにも、ずっとそう思っていたんじゃないか? ボクに月の意思はわからないよ」
 鳥の口ぶりは何かを知っていそうだ。けれど、教えてくれる気は無いんだろう。
「ほら、押してごらんよ」
レバーの上に手を乗せると、そこに止まって体重をかけられる。押せよ、とじわりじわりレバーが沈んでいく。
「星を見たいんだろう?」
「うん」
 僕は星が見たくてここまで来たんだ。今さら何も怖くはない。例え、このレバー一つで地球が砕けてしまったとしても。
#ノベルちゃん三題
「星、小鳥、レバー」
2016.02.20
86 空腹
 おなかが空いた。胃液が何もない胃の中で鳴いている。
 ポケットを叩くとビスケットが二つ。なんてただの夢だった。非常食にと忍ばせたビスケットは下敷きにしただけで粉々になっている。食べる気も起きず、取り出して枕元に置いた。
 代わりに飴玉を舐める。甘さがおなかに沈んで少しだけ満たされた。
2015.02.19
85 スカーフ
 彼は私よりも綺麗にスカーフを結ぶ。
 髪も長く伸ばして、陽に透き通る。それを器用に三つ編みに結って、女の子みたいだ。
「スカーフ結べない?」
「うん。やって?」
「しょうがないなあ」
 息が聞こえるほど顔が近づいて、呼吸が止まりそう。
「ねぇ、髪も編んで?」
「だめ。お前はそのまま」
2015.01.28
84 信号機
 信号は赤になった。今は彼女の番。
 信号が変わるまで、僕は動けない。向こうで彼女が楽しそうに彼と話している。
 僕らを知るたった一人。
 いいね。僕はそんな簡単に腕を組めないよ。
 そろそろ信号が変わる。
 彼女は弱い。彼女を守るのは僕だけ。
 僕を誰も守ってくれない。信号を無視したらどうなるんだろう。
二重人格のふたりのひとりのはなし
2015.01.13
83 ドーナツ
 匂いにつられて買ったおからドーナツ。
 一口ちぎって放り込む。ギトギトしない、くどくない甘さが口に広がる。
 二口目を食べる前に、もうひとつをトースターへ。熱々になるまでに食べかけを食べてしまおう。
 焼きあがったドーナツを千切らず食らいつく。はふはふと冷ましながら、もう一口。
#文章飯テロ
2014.09.19
82 逢瀬
一年に一度だけ。父と約束した彼女と出会える時間。学業に励んで、星を数えて迎えた時間。
逢瀬橋の下で手を繋いで語り合った。
しかし、最初だけ。
歳を重ねるにつれ、見合いの数が増える。一日が重く感じた。
一年に一度の時間は雨で会えないことが増えた。
今年も彼女は来ない。夫のいる彼女は来れない。
2014.07.07
81 献身的な愛を
 吸血衝動も欲もなくなった僕は、きっと枯れてしまうのだろう。
 血を吸いたいと思えなくなった。ゆるやかに死を待つだけ。
 でも、どうせなら華やかに散りたい。
「ほら、お食べ」
 僕が吸血鬼にしてしまった彼。
 血が欲しくて、吸いたくてたまらないはず。君のために、僕は血を捧げよう。
2014.07.02
80 罰ゲームと半年
「今日で半分終わったらしいよ」
「なにが?」
「一年の。早いよね」
「もうそんなにか」
「ところで罰ゲームはまだ続くのかい?」
「まだまだ」
「いつまで続くんだい?」
「さてね、俺にもわからんよ」
「君が心移りしない限り、僕はそばにいるから」
「じゃあ、ずっと、かもな」
2014.06.30
79 夜さん
「夜さん、今度駅前のドーナツ食べに行きましょうよ」
「ドーナツ?」
「くどくない甘さに、チョコレートやキャラメルがコーティングされてて、美味しそうでしたよ」
「行きたい!」
「はい、行きましょう」
「いつにする? いつがいいかな?」
「いつでもいいですよ。つまみ食いさえしなければ」
「はーい」
2014.06.27
78 嘘つきとキス
 なんの前触れもなく、彼は僕にキスをした。
 柔らかい感触と冷たい体温が伝わる。唇へ体温がじわりじわりと移っていく。
 ようやく離れると、唇は触れなくてもわかるほど熱を持っていた。
「好きだよ」
 僕も好きです、と言う前に、彼の口角が弧を描いた。
「まあ、嘘だけど」
「知ってます」
2014.06.25
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