『ええか、義仁(よしひと)。よく聞け。

男たるもの、欲に惑わず、理性に従い、仁義を重んじ、誠の心を欠くべからず。

一度この娘(おなご)と決めたならば、一生かけて添い遂げるのが筋であり、互いに契りを交わし合うまで不純な行いは恥そのもの。自制なくして大成は得られん。


つまり、それまでセックスはするな。

セックスだけはしてくれるな』



おじいちゃんが死ぬ間際に言った言葉。
俺はこれをずっと守り続けている。





***


「葛城くんっていうんだって。なあ、めっちゃかっこよくね?」


高校に入学して数日も経たないときだった。

入学と同時に振り分けられたクラスに同じ中学校の人は友達の中尾しかおらず、その他は全員知らない人達ばかりだった。物静かな俺と違って人懐っこい中尾はさっそく新しい友達を作ったとご丁寧に報告してきた。そしてその人物を俺に紹介すると言って連れてきた。

中尾の突拍子のない行動には慣れていた俺は、そう動揺することもないと思っていた。しかし入学当初から魅惑の人物として騒がれている男を、なんの変哲もない、むしろ地味なタイプの俺の前に差し出してきたのだから正直かなり驚いた。

「あ、うん」

と一言言うのが精一杯だった。


葛城という男は190に近い身長を無駄にしない、程よく筋肉のついた男らしい極上の体格をしていた。なおかつ、彫の深い目鼻立ちのはっきりとした美しい顔立ちをしており、見る者を惹きつけた。

圧倒的な存在感を放つ葛城を前にして緊張しないはずがなく、「よろしくお願いします…」という弱弱しい挨拶から俺と葛城の関係が始まることとなった。





「よお、今日暇か?」

登校途中の俺の肩に腕をまわしてきたのは葛城だった。一気に重力がかかり、少しよろける。その様子に「弱ぇなあ」と葛城は笑う。


「今日は暇だけど…」

「んじゃあ、帰り遊びに行こうぜ」

「いいよ」

そう言うとガシガシと俺の髪の毛を葛城が撫でまわした。葛城はかなりスキンシップの激しい男だ。肩を抱かれたり、髪を撫でられたりするのは当たり前。腰に手が回ることもあれば、後ろから尻を触られることもある。後者は大体俺の体が細いことをからかうためだった。

このような行動をとるのは男と男の友情を大事にしているからだ、と葛城本人が言っていた。


葛城に出会って数ヵ月が経つ。葛城と仲良くしたい人達はたくさんいたのに、なぜか葛城は中尾の次に挨拶を交わしただけの俺によく構ってくれる。

教室では中尾と葛城と俺の三人で行動することが多かった。けれど部活に入ってしまった中尾とは一緒に登校したり、一緒に遊んで帰ったりすることはあまりできなかった。その代わり、葛城が一緒に帰ってくれたり、家にお邪魔させてくれたりした。


葛城はワイルドな見た目を裏切らない勇ましい性格をしていた。けれど口の悪ささえ愛嬌に感じられるほど、気さくで芯のある男だった。

最初は少し怖いと感じていたものの今ではしっかりとした友人関係が築けていることを俺は嬉しく思っている。人間関係を結ぶことは人生においてとても大事なことだと教えてくれた俺の亡きおじいちゃんもさぞ喜んでいるだろう。




葛城との約束をとりつけたその日の昼休み、教室で三人で昼ごはんを食べていると葛城が唐突に言った。


「思ったんだけどよ、浅見に彼女っていたことあんの?」

俺は目をぱちくりして葛城を見た。

「ぶはっ!葛城ぃ、それは浅見に聞くもんじゃないよ」

それを聞いていた中尾が堪えきれずに吹き出した。


「あ?なんでだよ」

「浅見の家はね、ちょーお堅いんだよ。人道とか倫理を大事にしてんの。付き合うなら結婚前提のお付き合いじゃないとだめ。特に…なんだっけ。セックスは絶対結婚してからだよな?」

俺はこくん、と頷いた。その様子に葛城は顔をしかめる。

「はあ?お前それ律儀に守ってんの?」

「うん」

「即答かよ。ほんとはセックスしてえと思ってんだろ?」

そんなまさか、と俺は首を横に振った。中尾が再度笑う。


「こいつには何言っても無駄だよ。結婚まで童貞でいるって決めてんの。中学んときも下の話には無関心だったし、好きな人の話すら聞いたこともない」

「…なんでそんなに頑なに守るわけ?親が怖ぇのか?」

葛城は俺の考えが理解できないようだ。昔からこの類の話をするときは葛城のような反応をされるのが普通だった。だから、俺は気にも留めずにその質問に答えた。

「そんなんじゃないよ。これは死んだおじいちゃんとの約束。他の人がどう言おうが一度決めたことは貫き通すのが男だっておじいちゃんが教えてくれたから、俺はそれを守るんだ」

「うわ、でた。相変わらずおじいちゃんラブだなあ」

中学から仲の良い中尾には俺のおじいちゃんの話を何回か話しているので、聞き飽きたという表情をしていた。


「そうか」

興味がなくなったのか、葛城はもうこの話を続けようとはしなかった。

葛城のように毎日ラブレターを貰ったり告白されたりしている人間にはきっと俺の童貞事情なんて取るに足らないことだろう。

葛城には彼女がいるんだろうか。そんな疑問が浮かんだが、わざわざ聞くこともないのでご飯と一緒に飲み込んだ。




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