大学生にもなると歩きも自転車も馬鹿らしくなってくる。


そう小生意気なことを言うのは、N大学の女子学生だった。歩いて数十分の距離であってもタクシーを使う人がいるのは珍しくもなんともないので俺は特に気に留めることもなくタクシーを走らせる。

まあ、長距離のほうが断然ありがたいのが本音ではあるが。


「今日はなにかあるんですか?」

「合コンなんです」

俺はチラッとバックミラーから学生の姿を一瞥し、納得する。いかにも男性が好みそうな清楚で上品な服装で身を固めている。メイクにも力をいれ、本気で男を捕まえようとしている様子が窺えた。

俺はなんだか微笑ましい気持ちになった。


「しかも、S大の人達となんですよ〜!」

学生は嬉しそうに、さらに話を続けた。

S大学、といえばまさにおぼっちゃまお嬢ちゃまの通う生粋の私立大学である。


俺はときどきS大の学生達を乗せて走ることもあるが、チャラチャラしていて下品な雰囲気が少し嫌だった。まあ、大学生なんて皆そんなものだ。

楽しめるときに、楽しめることをやったらいい。

そうはわかっているが、俺は金持ちが嫌いだった。別になにかされたというわけではない。俺の一方的な嫉妬である。
なにせ俺の人生は我慢と我慢と我慢の連続で、華やかな暮らしなど夢のまた夢だった。それはまた後ほど話すことにして、今はこの学生を安全に送り届けることに集中しよう。


着いた場所は格式の高そうなお洒落なレストランだった。

「楽しんできてね」

そう言って合コンという名の戦場に向かう学生を見送った。


それから何人かの客をつかまえたが、はした金にもならない稼ぎで1日を終えようとしていたとき、再び先ほどの学生客が降りたレストランにタクシーの呼び出しがかかり、たまたま近辺にいた俺が向かうことになった。


偶然というかなんというか


着いた先には、さっきの女子学生含む数人の大学生がいた。しかもその女子学生は完全に酔いつぶれていた。居酒屋でもないのにそんなに飲んだのかと驚いたが顔には出さなかった。

「平井、お前が強い酒勧めたんだから責任とって家まで送れよ〜」

「えー俺ぇ?」

「それかお持ち帰りしちゃえよ」

ギャハハ、と残りの男女が笑っている。

まあなんとも慈悲のない会話だこと。他の女が止めないところをみると、彼女らのお目当ては平井という男ではないらしい。この学生達はまだまだ夜遊びにふけるんだろうなあ、と思いながら彼らの動向を見る。


「いや、俺がいくわ」

そう名乗りをあげたのは、それまでの学生達の会話に入らずに黙っていた男だった。


「え、矢野くんはこっちにいてよ」

「その子は大丈夫だって」

その場にいた女達が一斉に弾かれたようにその矢野という男がタクシーに乗り込むのを止めにかかる。

「矢野って、そーゆー子がタイプ?」

他の男達も驚いた様子だった。



「もたもたしてっから、運転手さん困ってるだろ。送ったらまた合流するから住所教えろ」

また戻ってくるという男の言葉に安心したのか、女の一人が酔いつぶれた子の住所を伝えた。


俺はそれをナビに登録して、酔いつぶれた子と一緒に男が後部座席に乗り込むのを待ってから、「じゃあそろそろ動きますね」と言って車を発進させた。


男は一言も言葉を発さず、ただ座っていた。俺も疲れていたし、客が話したがらないのに無理に世間話をする必要もないと判断し、シーンとした空気の中指定された場所まで向かった。

結局その男はその酔いつぶれた子をどうにかこうにかするわけでもなく、あっさりと家まで送り届けた。


そして、車内は仲間のもとに戻るつもりの男と運転している俺だけになった。




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