人通りのほとんどない男子トイレの個室で、体を縮こませ、息をひそめる。
走ったせいか、心臓が波打ち、額に汗がたまる。

辺りはシーンと静まり返っていて、なにも聞こえない。


(もう、大丈夫だろうか……)


ズボンのポケットにいれた携帯がブルブルと震えている。さっきからずっと。


電話の相手は誰か分かっている。

そして俺がこんなふうに人目を避けた場所にいる原因でもある。



今まわりに人はいないようだし、裏門も近い。そこを目指せば、学校を出られる。

いつまでもこんなとこにいるわけにはいかなかった。学校を出ないかぎり、俺に安息の地はない。


窓に俺の姿が映らないように、隠れながら廊下を歩き、ようやく裏門まで辿り着いた。扉は閉まっているけれど鍵はかかっていないようだ。


運がいい。
あの男も、あの男の仲間もいない



(ここまで来たら、大丈夫……)


意を決して裏門に左手をかけた瞬間、ドスのきいた低い声が耳元に響いた。



「――――悠也、どこへ行く」



「あ……」

門へと伸ばした手の上に、俺よりも大きな手が覆いかぶさる。


「ひっ、いっ……、やめっ、いたい!」

上から容赦なく圧力をかけられ、手には凄まじい痛みがはしる。



「答えろ」

俺の背後にいる男は、もう片方の手で俺の髪をつかんで、強引に引っ張った。言わずもがな俺の顔は空に向き、上から俺を覗き込む男と強制的に目を合わせる形となった。


「俺はな、好きなやつに暴力なんざふりたくねえんだよ。分かるだろ?ちょこまか逃げて俺の気を引こうとしてるのは可愛いが、俺はそんなに我慢強い男じゃねえからな。そろそろ限界なんだわ」

男は俺を軽々と持ち上げると、そのまま肩に担がれた。


「やっ」


「暴れんじゃねえ」

冷たい声が男の口から発せられ、ピタリと体が停止する。


「最初からそうしろ」

連れていかれた先は、ガランとした誰もいない屋上。

ドアを閉めたところで降ろされる。
そのまま乱暴に口を塞がれた。


「ふっ…ぁ…」

彼の右手は後頭部、左手は腰に回った。身動きがとれないのをいいことに、男は好きなだけ俺の口内を弄ぶ。

足がガクガクし、立っていられなくなったところで床に押し倒された。


「ひっ」

頭の中がボーッとしていた俺は、ようやく押し倒されたことに気付く。だが、気づくのが遅く男の手は既に俺のシャツにのびていた。


逃げだそうとする俺の手首を自分のネクタイで拘束し、シャツのボタンを全部はずし露わになった俺の体の匂いを嗅ぎながら男は言った。


「はあ…、興奮すんなァ」


その一言に体が凍りつく。これからされることを知っているからこそ、その言葉がなによりも恐ろしかった。


彼に捕まったら最後。逃げられはしない。





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