前回発行しました前編の続きです!今回でちゃんと完結しました。
最後はなんだかんだとありつつ、結局いつもと同じくラブラブイチャイチャになる二人です。

冒頭3P〜9Pのサンプルになります。


 俺は真昼間から便所に駆け込んでいた。しかし急な便意に襲われたわけではない。理由は簡単である。便所へと入るジェノスを目撃したからだ。見かけた瞬間無意識に足が動いていた。それもこれも、すべて夢のせいである。フェラチオの神(ジェノス似)とかいうふざけたやつに『三日後にジェノスにフェラチオをせよ、さもなくば死ぬ』という理不尽すぎる予言をされて、とにもかくにも相手であるジェノス(本物)にこの事を伝えるべきだと思い、行動に移したのである。
 すでにジェノスとはアナルセックスまでしているし、今更フェラチオくらいどうってことないだろ、なんて思い込もうとするが、内心心臓がばくばくだった。
 便所に入ると、用を足しているジェノスの背中が見えて、たじろいでしまう。どうやって話しかけるべきかともじもじしていると、気配に気づいたジェノスが振り返ってきて、俺を見つけると目を丸くさせる。
「どう、したんですか?」
 便所に来たものの、一向に用を足す様子のない俺を、怪訝そうに見つめてくる。
「いや、あのさ、」
 視線をさまよわせながらどう切り出そうかと悩んでいると、用を済ませたジェノスが俺のほうを気にしながらも手洗いを済ませ、心配そうな顔で向き直ってくる。早く切り出さなければ。用を足すわけでもないのに便所に来たやつなんて、不審すぎるし、これではまるで本当のホモ野郎のようである。
「実は……」
 改めて、となるととてつもなく言い辛い。アナルセックスまで済ませておいて何を恥ずかしがっているんだ、とも思うが、真昼間からフェラチオなんて素面で口に出すなんて恥ずかしさ以外ないだろう。ジェノスは怪訝そうな顔で俺の言葉を待っていた。
「…」
そんな心配そうな顔をされると益々話しづらくなる。真剣な顔して聴く話じゃないんだ。また例のトンチンカンな神様のやつなんだ。
「あ、あの、前言っていた神様、いるだろ?」
 顔を真っ赤にさせながらも言うと、ジェノスは一瞬考えるような顔をした後、すぐにああ、と思い出してくれた。物分りが良くて助かるぜ。
「アナルセックスの神様、とやらの事ですか?」
 そうはっきり口にされると恥ずかしい。何より意味がわからないよな。何がアナルセックスの神様だよってな。
「そっ、そう! いや、そうはっきり言わなくていいんだけど……、その神様の仲間っていうか、新たな奴が現われて……」
「え?新たな?」
「あの、フェ……、あの、口でするやつ、あの……」
「フェラ?」
「そう!」
 顔が真っ赤になっている自信がある。もうここまで来たらすべて言ってしまおう、と心に決めてヤケクソ気味に叫ぶ。
「お前にフェラしないと俺死んじゃうからフェラさせろ!!!」
 便所内に俺の声が響き渡る。なんで俺は今叫んだんだ?しかもお願いではなく、させろとな。これではジェノスに俺がフェラしたくてしたくてしょうがないみたいな感じに伝わっちゃったんじゃないか?違うんだ、本当はしたくないんだ、したくないけど、フェラチオの神様がどうしてもしろって言うから!などと脳内で自己弁護していると、ジェノスがぽかんと間抜けにも口を開いたまま固まっちまっていることに気付く。いや、そうだよな、そりゃあ驚くよな。一度ならいざしらず、これで2度目だもんな。ホモの俺が、ジェノスと体の関係を持ちたいあまり、ありもしない夢の話をし、優しいジェノスに付け込んでいる、と思われても仕方ないくらいの意味不明さだ。俺だってよく分かってないのに。ジェノスはもっと理解出来ないだろう。ただただ茫然としちまっているジェノスに申し訳なさと、今すぐにでも立ち去りたいほどの恥ずかしさで死にたくなっていると、ジェノスは何度か口をぱくぱくと開閉させた後、ようやく絞りだすように声を出した。
「い、今ですか?」
 今度は俺がぱちくりする番だった。慌てて首を振る。
「いや、違う、3日後だって」
「3日後…」
 ジェノスが呆然とした声で呟いた。
「う、うん」
 おどおどしつつも頷くと、ジェノスが唐突に真剣な顔をして俺を見詰めてくるので、何事かと身構えてると、そのままの表情でずいっと近づいてくる。
「と、いうかその前にアナタ、フェラした経験、あるんですか?」
「は?」
 思わず頬がぴくっと引きつってしまった。ついで大声が出る。
「あ、あるわけねえだろ!」
あまりの大声だったものだからジェノスも驚いたようで、目を丸くした後、ぱちくりとゆっくり瞬きをした。
「そう、ですよね…」
「う、うん」
 なぜか居たたまれない気持ちになって視線を泳がせる。ジェノスが黙ったまま俺をじっと見つめている気配がするから、とにかく居心地が悪かった。早くこの場を離れたくなる。とにかく伝えることは出来たのだ。後は3日後ジェノスにフェラが出来れば俺は再び死を回避することが出来るのだ。ってか今気づいたけど、前回も、今回も出てきた神様って実は死神なんじゃねえのかよ!?死を予言って完璧死神だろ。そんなことをつらつらと考えつつ、立ち去るために声を出そうとした瞬間、ジェノスが唐突に俺の腕をつかんでくるから、びくんと驚いてしまう。
「こちらに来てください」
 は?と問おうとするが、声を出す前にぐいっと手を引かれ、慌てるしかない。しかもなぜか奥へと進んでしまうので、困惑しかなかった。
「ど、」
 どうした?と聞こうとした時、その先にあった便所の個室へと抵抗する間もなく押し込まれ、振り返る前に、背後でがちゃんと鍵が閉まる音をしっかりと耳に入れた。気配といい、衣擦れの音といい、これは絶対ジェノスも一緒に個室の中に入ってきているな、と気づいて慌てて振り返る。
「お、おい!」
 振り返ると、妙に真剣な表情のジェノスがいて、面食らってしまう。
「イメトレしましょう」
 しかもこの言葉だ。唖然とするしかない。
「い、イメトレ?」
「そうです!」
 なぜそんなにも使命感に溢れた顔をしている。
「いきなり性器を舐めるって、とても抵抗あると思うんです」
 そりゃあそうだろう。何度も言うが俺はホモじゃないから経験もないし、心からしたいとも思ってないからな。
「だからイメトレが必要だと思います」
「…」
「本番は今日から3日後でしょう?イメトレするくらいの猶予はあります」
 そんなイメトレイメトレって何度も言わなくても分かるわ。そうツッコみたかったが、そんな心境ではない。確かに3日後、あの俺の尻の中にも入ったという禍々しいジェノスのちんこを、はい舐めますって言ってそう簡単に口に銜えられるとは思えない。アナルセックスも相当な事件に思えたが、男が男のちんこを銜えるって同じくらい大変なことだよな、そう思うと、俺、出来るのか?と不安になる。そんな心境を察したのか、まったく察していないのか、突然ジェノスが人差し指を俺の前へと差し出してくる。どこの喪黒さんだ?と言わんばかりの、迷いない人差し指である。何のことかさっぱり分からず、じっくりと指を眺めてからジェノス自身へと視線を移す。
「何だ?」
 首をかしげると、ジェノスは真面目な顔をして答えた。
「舐めてください」
「は?」
「まずは指でイメトレしましょう」
「…」
 物凄く真剣なジェノスの表情から、冗談はやめろよと流せる雰囲気ではないと察する。と、いうか、俺からフェラさせろと言っているのだから、冗談はやめろと言いたいのはジェノスの方だろう。しかし言わないでくれるから、その点では有難い。しかし…。
「…」
 いきなり指を舐めろと突き出されても、どんな顔をして舐めろというのだ。ものすごく恥ずかしい行為な気がする。だって舐めている間、ジェノスは俺の顔を見るんだろう?こんなハゲのおっさんの顔、用があったって本当なら見たくないだろうに、自分の指を舐めている顔は殊更、気色悪いに決まってるだろう。しかしこうやって悩んでいる間にも時間は刻一刻と過ぎていく。早く仕事場に戻らないと、変に思われてしまうだろう。
「手なら先ほど洗いましたので」
 俺が渋っているから、舐めるのを嫌がっていると思ったらしい。ジェノスがきりっとした表情で囁いた。いやそういう問題じゃないのだ。舐めるのは良いとして、俺は、顔を見られたくないのである。ああああああ、もう俺は何を迷っている。別に今ここでちんこを舐めるわけではないのだ、せっかくジェノスも乗る気になってくれているんだから、さっさとやってしまえ、と思うものの、やっぱり躊躇ってしまう。
「やめますか?」
「待て…!やる、から」
 指を舐めるのさえ手間取っていたら本番ではどうなるんだ。ここでやらねば男が廃る。妙な使命感に駆られ、俺は差し出された指を舐めるために、おずおずとその手に触れる。思わずごくりと唾を飲み込んでしまった。ぎゅって縋るように握りながら見詰める。それは爪の整えられた小奇麗な手だったが、やっぱりというか当然のように、逞しく大きな手で妙にどきどきしてしまう。
「…」
 ちらりと上目でジェノスを窺うと、なぜか熱っぽい視線で見つめられ、心臓が跳ねる。見ていられなくて視線が泳いでしまった。今すぐにでも走って逃げたい心境だったが、ここまで来たら逃げるわけにもいかない。意を決し胸に詰まった息を吐き出すと、おずおずと口を開く。そのまま握ったジェノスの人差し指に舌を這わし始めた。
 これはフェラチオのイメトレ、フェラチオのイメトレ。そればかりを考えながら、口に含まないまま指先から付け根まで舐めおろし、また指先へ上がっていく。こんな感じだろうか?おずおずと見上げると、なぜか目を細めて俺を凝視していたジェノスが真剣な声で問いかけてくる。
「アナタ、フェラしてもらったことはありますか?」
 あるように見えるか?多少むかついたので、睨み付けながらも首を振る。
「ない」
 だから多少拙くても我慢してくれ、と上目で訴えた。するとジェノスが一瞬ふっと笑った気がして、カッと一気に顔が赤くなる。腹立つ―――。どうせ俺はほぼ童貞のハゲのおっさんですよ!すんませんね!
憮然としたまま唇を尖らせていると、握ったままのジェノスの指が動く。ふいに見下ろすと、中指と人差し指の爪の先でくいっと唇を撫でられた。くすぐったさと恥ずかしさで視線を上げると、ジェノスが俺をじっと見つめていた。早く続きをやれということだろうか?それでもたじろいでいると、焦れたのか唇を開くようにと親指で上唇を持ち上げられて、観念する。俺は再び口を開いた。
 色々な葛藤を振り切るようにして目は閉じる。そのままジェノスのちんこを脳の中で想像して、第一関節の辺りを舌先でくすぐった。唾液が垂れ落ちそうで吸うといやらしく音が上がる。ああそうか、吸った方が気持ちいいかなと舌を蠢かしながら吸い付いていく。指と指の狭間を裏筋に見立てて尖らせた舌を這わせる。
そうしていくと、段々息が苦しくなって乱れてくる。指を舐めているだけなのにいやらしいことをしているような雰囲気になって居た堪れない。
「とても、エロですね、これ」
 ジェノスもそう思ったらしい、聞こえてくる息遣いが荒い。興奮してくれてんのかな?と思うと嬉しい。調子に乗って、更に続けようとすると、口の中にあった指が唐突にゆるく出し入れし始めたのである。
「ん、んう……、くっ」 
 舌を絡めたり吸ったりするペースが乱される。しかも喉の奥まで指を突っ込まれるから苦しくて仕方が無かった。指の腹が上あごを何度もいやらしく撫でる。そのまま舌の裏や、歯茎にまで指を這わされ体が震えてしまった。どこかで口の中は性感帯だと聞いたが、それは本当だったらしい。舐めるために支えていたジェノスの腕に今や縋りつく形になっていた。しかし情けないことにそれだけでは腰が抜けそうになってしまったが、察してくれたジェノスが背に手を回し、腰を支えてくれて、何とか立っていられた。
「んっ!」
 口内の気持ちのいいところを指が掠ったせいでとりわけ高い声が出た。恥ずかしさで思わず顔をそむけてしまうと、ピストンしていた指は涎を引いて抜け出ていき、俺はその衝撃でよろけながらも一歩後ずさった。
「ハアっ、」
ただ指を舐めていただけだってのに、この疲れようは何だ。個室の壁に寄りかからなければ体重を支えていられない。もうイメトレは十分だろ、という意味を込めてぐったりしつつも視線を上げると、ジェノスが俺と同じくらい顔を赤らめている事に気付く。
「気持ちよかったのか?」
「はい……」
 指を舐められただけでも、気持ち良いものなのか。知らなかった。
「アナタは?」
 改めてそう聞かれると、恥ずかしくて耳まで熱くなるが、否定しても変な声を出していたのは間違いないので、こくこくと頷いて誤魔化すしかなかった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -