抱きつく匂い、触れたい瞳



布団の中で裸のまま天井を見上げていた。事後の倦怠感で頭がまだぼんやりしているのだ。しかも隣にいるジェノスが指先で俺の耳とか、首、肩とかをしきりに撫でてくるから、その気持ち良さにもぼうっとしてしまう。
少し経つと汗と体の火照りが冷めていき、思考もクリアになっていく。その途端先程までの自分の痴態を思い出して恥ずかしくなった。
エッチが終わった後の、お互い気だるさを残したまま何も語らないこの時間はいつも苦手だ。
甘い雰囲気を少しでも出したくなくて、つい顔を背けてしまうが、その間もジェノスの指は名残惜しそうに俺の顔のあちこちに触れてくるものだから俺の小さな抵抗も無いに等しいものだ。

「先生」

ジェノスが上体を上げて俺を覗き込んでくる。うっとりと微笑まれると、白い瞳が一瞬だけ金色に輝いた。それはやけに澄んでいて、こんな事を言うのは気恥ずかしいが、何と言うか…とても綺麗だ。未だに至近距離で見つめているとそれこそ魅入られそうになる。切れ長の瞳、真っすぐ通った鼻筋、薄く整った唇。肌も陶器のようにツルンツルンである。――――どこを取ってもイケメンの要素しかないのだ。しかも金髪と来た。いつもは不気味なくらい無表情なくせにこういう時は嘘みたいに穏やかな顔してて、これまたむかつくくらいイケメンだから、とてもじゃないがじっと凝視なんぞ出来るはずもない。目が焼ける。

「せんせい」
「…っ」

俺の思惑をよそに、いきなりジェノスの顔が降ってきて、キスをされる。唇を割られ、ぬめった舌が捩込まれた。ついでに歯列をなぞられて、上顎も舌先で撫でられる。

「ふっ…んん…っ」

ジェノスの舌は巧みに動き、俺はこのエッチなキスをやられると、いつも頭がぼうっとしてしまう。

「先生キス好きですよね」

ジェノスが少しだけ唇を離して聞いてくる。

「うん、好き」

素直にこくんと頷くとジェノスは何故かクスクス笑う。

「可愛い先生」
「可愛くねえ、いいから早くキスしろ」
「はい」

嬉しそうに笑いながらジェノスがまたキスしてくる。俺もだんだんその気になってきておずおずと舌を出すと、待ってましたとばかりに吸い付かれた。

「…んぅっ」

甘噛みしつつも強く吸われ、痺れるような刺激が背筋を震わせる。快感なのか酸欠からなのかはわからないが、くらりとするような眩暈に堪えながら俺は必死に動き回るジェノスの舌に舌を絡ませ続けた。

「ふぁ、ぁ…っ…」

ちゅ、と音を立ててジェノスが離れる。

「先生」

囁きながらも再び唇を重ねられる。ちゅっちゅって吸いつかれると、頬や首筋、鎖骨にもキスされていく。そのままジェノスの手が脇腹を這い上るようにまさぐった。
快感に眉を顰めていると、ジェノスが食い入るように俺の事を見ている事に気付いて、見るなと言いたかったが、素直に聞き入れてくれるような奴ではないので、ぎゅうと瞼を閉じる事で羞恥を誤魔化した。それでも存在を確認しておきたくてジェノスの腕を縋るように掴む。

「先生、可愛い、好き」

ジェノスが恍惚と囁きながら触れるだけのキスを繰り返してくる。羞恥でやけに顔が熱い。息が出来ないくらいのキス攻撃に俺が耐えていると、突如それが止む。ふと目を開けると覆いかぶさるジェノスと視線が合った。そのまま何も言わず、ただニッコリと微笑んだ。

「…何笑ってんだよ」
「いえ、可愛いなって思って」
「笑うな」
「…ふ、すみません」
「おいこら」
「ふっ…だって俺、とても嬉しいんですよ」
「何で」
「先生とこうしていられる事が、とても嬉しい。幸せです」

うっとりとしみじみ言うから、俺は返事に窮してしまう。

「…ふーん」

何とか絞り出した返答が、鼻を鳴らすだった。こいつには羞恥心というものがないらしい。俺はとても目を合わせていられずに、そわそわと視線を逸らした。

「っあ!」

俺が斜め上の方を見て誤魔化していると、突然ジェノスが俺の乳首をぐりっと捻ってくるものだから驚いてしまう。痛みに顔が歪んでしまった。

「こっちを見てください」

ジェノスが責めるような顔で怒ってくる。

「はずいんだよ!分かれ、バカ!」
「…その恥ずかしがってる顔が見たいんです」
「っアホ」

見たいと言われれば尚更見られたくなくなる。真っ赤になっているだろう顔を隠すため俺は両手で覆った。するとジェノスが俺の手を顔からぐいっと剥がし取ってしまう。
視界が開かれると、そこに真剣な表情をしたジェノスがいて、じっと見詰められる。俺も気押されるようにおずおずと見詰め返した。

「……何を考えてるんだ?」

あまりに食い入るように見てくるから思わず聞いてしまう。ジェノスは俺の頭皮を撫でながら囁く。

「先生のことを考えていました」

こいつはこういう事を平気で言うから、俺はいつもたじたじになってしまう。年下に良いように振り回されて本当腹が立つ。

「どこで覚えてきたんだ…そんな、台詞」

照れ隠しに、ジェノスの顔から視線を外しつつ呟く。

「全部本当の事ですから。先生を見ていると自然と口から出てしまうんです」

臆面もなくさらりと言ってのける。

「……」

俺が不審げな眼差しを向けると、ニッコリと微笑まれて益々眉根に皺が寄ってしまう。

「…じゃあ、何だ、あの、その」
「何ですか?」

ジェノスが俺の耳を撫でてくるから、そわそわしてしまう。

「だから…、…何ていうか、」
「はい」
「キス、とかはどこで覚えたんだ?」
「キス?」

ジェノスがきょとんとした顔で聞いてくる。俺は黙っていられずに目を泳がせながらも言葉を続ける。

「いや、だってお前、やけに上手いって言うか、しつこいっていうか…」
「…」

ジェノスが俺を凝視してくるからつい俯いてしまう。そのまま暫くジェノスからの強い視線に耐えていると、くすりと笑い声が聞こえてくる。

「こういうキスの事ですか?」

そう言いながらまた顔が降ってきて、キスされる。再び口の中を舌でかき回されて、舌にちゅうちゅう吸い付かれた。やや乱暴だったから唾液が口の端から垂れてしまってジェノスはそれすらも嬉々として舐め取り、ようやく唇を離した。

「もしかして、嫉妬してくれていましたか?」
「は、ハア?」
「俺が、どこの誰とキスしたのか、気になるのでしょう?」
「ち、ちっげえよ!どこでそんなエロいキス覚えたのかって不思議に思っただけだよ。ただの素朴な疑問!!」
「つまり覚えたであろう相手に嫉妬してるってことですよね?」
「っ…」

あまりに都合の良い解釈だったが、まあ、間違いではない。嫉妬、なのかは分からないが、俺と付き合う前はどんな奴としたんだろう、とちょっと疑問に思ってしまっただけだ。いつもいつも愛おしげにキスしまくってくるから、前の奴ともそうだったのかな?って…つまりこれは嫉妬って事なのか?自覚すると、めちゃくちゃ恥ずかしくなる。でも正直に嫉妬しましたっていうのは、何となく嫌である。

「………………うー」

俺がふてくされたような顔でうなり声を上げていると、ジェノスが俺の額にキスをしてくる。

「先生可愛いです」

そう言って破顔する。何ともキザな野郎だ。そのまま目を細めて愛おしげに見詰められ、ジェノスの金色の柔らかな髪が俺の目前でさらりと流れる。思わず撫でたくなった。手を伸ばしかけていると、ジェノスが語りかけてくる。

「恋人の過去が気になるのは、当然の事です。交際相手に向ける執着心や独占欲はあって当たり前なんですから。だから俺すごく嬉しいんですよ」

うっとりと微笑まれる。俺は恥ずかしさのあまり慌ててしまう。

「そ、そうなのか?」
「ええ、俺はいつだって嫉妬してますよ。先生は本当に素晴らしいお方ですから」

どこまで本気か、怪しいもんだな。
俺が疑いの眼差しで見上げているとジェノスが爽やかに答える。

「本当ですよ。先生に近づく奴がいたら、俺はそいつに何するか分かりませんよ」

ニッコリとしながら言うから、俺は背筋がぞおっとしてしまう。

「め、滅多な事すんなよ?」

恐々言うと、ジェノスはこくんと頷く。

「ええ、ですから先生も俺以外を見る事のないようにお願いしますね」

そう言いながらジェノスの手の平がわき腹を撫であげる。俺は完全に不意をつかれてしまって、変な声が出てしまう。

「ふあ、」
「こういうことを先生にするのも、俺だけです」
「お、お前以外、したい奴なんかいるわけねえだろ」

皮膚の上をジェノスの唇が辿ってゆく。こっちが焦れるような動きで、ゆっくりするものだからとてもくすぐったい。
ジェノスは胸を舐めていた顔でちらりとこちらを見てきて、切ないまでの顔で嘆く。

「先生は何も分かってらっしゃらない」
「な、何だよ」

ジェノスの唇が、肋骨のあたりに差し掛かったところで、不意に噛みつくようにしてそこに口づけてきた。

「っ、いっ」

鋭い痛みに顔が歪んでしまう。ジェノスは手を付き上体を上げると、物憂げな表情で俺を見下ろしてくる。

「恋人が魅力的過ぎるのも、辛いものです」
「ハア?どういう事だ?」

眉をしかめると、ジェノスは悲しげに目を細めながらもニッコリと笑う。

「不安を常に抱えているって事です…。あ、でも俺が先生を諦めるなんて選択肢は一切ありませんから」

そう言いながらジェノスが寂しそうな表情をするから、胸が締め付けられてしまう。今にも泣き出してしまいそうな顔だった。

「…」

ジェノスの縋るような悲しい目に、何も言えず思わず口を噤んでしまう。
少し考えた後、ジェノスの後頭部に手を回しぐいと引き寄せた。そのまま触れるだけのキスをする。こいつの金髪はムカつくが柔らかなこの手触りだけは、結構気に入ってるんだ。

「何余計な事ごちゃごちゃ考えてるのか知らんが、時には素直に行動するのも良いもんだぞ」

言うとジェノスは目を見開いて驚く。

「お前の言う事は小難しすぎる。俺、結構単純だぜ」
「…俺は先生に会ってからどんどん欲深くなっている気がします」
「ふーん、そうか」
「全部先生のせいです」
「いいんじゃねえか。たまには欲深くなっても」
「っ、」
「あ、ちげえよ!?勘違いすんなよ!?これ以上エッチな方面では欲深くなるなよ!?」

俺が慌てて訂正するも全く聞いていないようで、ジェノスは俺の胸に顔を埋めて縋ってくる。

「……あんまり可愛いこと言わないでください」
「言ってねえって!」
「もっともっとしたいって事ですよね?」
「ちげええってええ!!」

俺は大声で叫んだ。そのままジェノスの髪の毛をがしっと鷲掴む。

「俺の事をもっと信用しろって事だよ」
「信用?」

ジェノスが顔を上げ、不安げに子供みたいな声で聞き返してくる。

「そうだよ、お前は何でも深く考えすぎなんだ!お前が俺を好きで、俺もお前が好きで、それでいいじゃねえか。何を不安がる必要がある。何が辛いものか!あん!?そうだろ?」

そう聞くと、圧倒されたようにジェノスは口を噤んでしまう。俺も勢いのまま叫んでしまったから、我に返ると恥ずかしいものがある。俺もお前を好きで、とかナチュラルに告白までしちまってるし!じわじわ顔が赤くなってくるのが分かって顔を背けようとすると、唐突に衣擦れの音がした後、ジェノスが耳元に顔を寄せてきた。

「またしたくなってきた」 

常には聞かないような男っぽい声に一気に顔が熱くなった。

「な、何言って」

俺が慌てて抗議しようとすると、ジェノスは顔中にキスをしてきて俺に反論の暇を与えてくれない。

「先生が俺の事をとても好いていてくださった事は分かりました。俺も先生が大好きです。ですからしましょう」

何がですから、だ!全然脈略がねえじぇねえか!

「うあ」

いきなりさっきまでジェノスが入っていたところを指でいじられてぐちゅりと音がする。

「やめ、」

逃げようとする俺の腰をもう一方の手で押さえ込まれて、ぐいと尻に硬くなった性器を押し付けられた。おいいいこれまでの会話のどこに興奮材料があった!?

「さっきしたばかりだから、すんなり入っちゃいそうですね」
「ん、あ、」

足を広げられると、あっさりと熱いものが挿入を果たしてしまう。一度奥までずんと貫かれると、ゆるゆる引き抜いていき、入口付近を先端で前後に動かれる。
ジェノスの言うようにほんの数分前までしていたばかりだったからすぐに中が馴染んでしまう。すると慣れたようにどんどんと律動が激しくなっていった。見上げると気持ち良さそうに息を吐くジェノスの薄い唇が見えて、正直、なんだか、とても興奮した。

「はぁっ、あ、ジェノス……」
「先生、好き っ」
「お、俺も、す、好き」
「っく、」

ジェノスは息を呑むと、更にぐっと足を開かせてきて奥に奥に突き上げてくる。

「あ、ああ、じぇのす」

ジェノスが俺の俯いていた視界に入ってきて、キスされる。離れると目を細め、これでもかというほど愛おしげに笑われて、胸が苦しくなる。口にしたことはないが、俺も結構、というか大分ジェノスの事が好きなわけで、これ以上好きになっちまったらどうするんだよ!これでも遠慮してたんだぞ!ジェノスはイケメンでまだ若いから、覚悟してた。師匠、って事で恩義を感じてしまってそういう好きと、勘違いしてるのかもしれないって。いつか本気で好きになる人が出来たら、すんなり身を引いてやろうって。でもここでまで本気にさせやがって、もう諦めてなんかやれそうにない。

俺が強引にジェノスの唇に吸い付くと、ジェノスもそれに応えてくれて、いつもの通り翻弄されてしまう。
キスされながら突き上げられると、とても気持ちが良くて、きゅうきゅう中を締め付けてしまうのが自分でも分かる。そのまま良い所を突かれると目もくらむような快感だった。

「っあ、あ、ああ、」

律動のスピードが上がり、激しく腰がぶつけられる。衝撃に耐えるようにシーツを握りしめて喘ぐしかない。しかも狙いを定めて良い場所を思いきり突いてくるから、その度びくびくと体が跳ねてしまう。
搾り取るように轟く中を乱暴に、ただひたすら突き上げてきて、俺の快感を押し上げる。

「ひっ、う、っ!だめっ、おれ、いっちゃ……っ」
「おれも、イキそう、です」

がつがつと腰を動かされて、どうにかなりそうだった。頭の中が真っ白になるこの感覚は何度しても慣れなくて、ジェノスの首に手を回して縋った。そのまま数度強く貫かれ、俺は達する。

「あ、あ、あああっあイクっ」

目の前がスパークするような感覚を覚えながら、ジェノスの腹に盛大に吐き出した。
ジェノスは脈打つ中を強くえぐるように突き上げて、数度内壁で擦ると、んって息を殺すような声を出しながら中で達したようだった。

「ハア、、アっ、っ」

余韻を楽しむようにイキながらジェノスがゆるゆると腰を動かすから、俺もびくんびくんと体が震える。見上げると恍惚と焦点の合っていない瞳で荒く息をするジェノスが、めちゃくちゃいやらしくて、思わずドキッとしてしまう。俺もそんな顔してんのかな?って思うと猛烈に恥ずかしくなってきて俺はジェノスの背中に回していた手でジェノスをぐいと引き寄せた。肩に顔を埋めると、ぼそりと呟く。

「こんな恥ずかしい事させんの、お前だけなんだからな」
「…はい、分かってます」
「本当か?」
「はい」
「じゃあ、不安とか辛いとか言うな」
「…はい」

泣き出してしまいそうな声だった。俺が腕を外すと、ジェノスがのっそりと上体を上げる。見上げると、霧が晴れたような顔でニッコリと微笑まれた。

「先生好きです」
「おう」
「いつも女々しくてすみません」

俺は首を振る。

「気にすんな。俺はお前の事ちょっとやそっとじゃ嫌いになったりしないから安心しろ。だからたまには我儘とか言っても良いんだからな」

言うとジェノスは心底嬉しそうに破顔して、俺を見詰め返してくる。

「はい」

頷いて、キスをされる。

「では、さっそく我儘を一ついいですか?」
「おうどんどこいだぜ」
「またしましょう」

その瞬間未だ入ったままのジェノスのものが大きくなったのに気づいて、愕然とする。どんだけだよ!と冷や汗が出てきたが、ジェノスがめちゃくちゃ嬉しそうに笑うから反論出来なくなる。

「先生大好きです」

犬みたいにはっはっ言いながらあちこち舌で舐めてくるジェノスを見上げながら、俺は観念するように溜息を吐いた。

「ほら、早くまた気持ち良くしてくれよ」

ジェノスの首に手を回すのだった。
                
25/11/16


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