「臨也!ただいま!」 やや乱暴に扉が開けられ、一人の子供が転がり込む。 部屋の主、臨也の近所に住む小学生、静雄だ。 「お帰り、シズちゃん。どうしたの?そんなに慌てて」 臨也はPCに向けていた視線を、身体ごと静雄に向き直り、静雄の小さな身体を受け止めた。 静雄の背中には黒いランドセルが背負われたままだった。家に帰らず、まっすぐこの部屋に来たのだろう。 「臨也!おれ作文ほめられた!」 えへへと笑う静雄の癖のある柔らかい髪を撫でながら、渡された作文用紙を見れば『将来のゆめ』とあまり綺麗ではない文字で書かれた題が目に入る。 作文の内容は、臨也の仕事はよくわからないが、早く大きくなって臨也の仕事を手伝いたいという子供ならではの純粋な内容であった。 微笑ましい作文だが、しかしそれを読んだ臨也は静雄の髪を撫でるのをやめ、彼の顔を覗きこみながら言った。 「シズちゃんは大きくならなくていいんだよ」 ずっとずっとその小さな小さな身体でいればいいと、いつまでも子供のままでいてくれと、男の狂気混じりの言葉を子供は受け入れていく。 「臨也、ネバーランドってどこにあるのかな?」 男の狂気混じりの言葉に侵された子供の言葉だった。 「そうだね。ネバーランドならシズちゃんも子供のままだよね」 しかし臨也はネバーランドなど無いことは知っている。架空の世界だと。 ――ネバーランドが無いなら、この手でこの子を壊し、永遠に傍に置けないだろうか? 臨也の細長い指が静雄の細い首にかかる。 ――そうだ。いつか成長してしまうなら、この手で……。 指に力が入り、静雄が呻いた微かな声で臨也は現実に戻る。 「ごめんね、シズちゃん」 そう言って、また髪を撫でれば、静雄はゆるりと首を横に振り臨也を許した。 ネバーランドはどこですか? (ネバーランドなんて存在しないことは知っている。) (だからこそ、この子供を手にかけない自信はない) |