20:ひとりぼっちの戦い。


 「大丈夫、大丈夫」

自分に言い聞かせて街道沿いを歩く。冷静になって考えてみると、どうして出てきちゃったんだろうって思えてきた。ちょっと調子に乗っていたのかもしれない。さみしさでつい魔がさしたのかもしれない。どうしよう、すごく怖い。でもここまで来てしまったらニ・アケリアに戻ろうなんて思えない。早くみんなに会いたいっていう気持ちの方が大きい。
 だから、早く歩こう。そう思って足を速めた、その時だった。茂みから何か音がして、私は咄嗟に両手で盾を構える。嫌な予感がする。もしかして、と考えていると茂みから現れたのはやっぱり魔物だった。

「で、出たぁ!!」

女の子の頭に蕾がついたような外見で可愛らしいけど……これはたしかリーフマンドラっていう列記とした魔物。つまりは、とても危険な存在。街の外に出るということは魔物に遭遇することだと分かっていたけど……でもやっぱり怖い。分かってても怖いものは怖い。襲いかかってくるリーフマンドラに、防衛本能の赴くままに盾を持った手を振り回す。ばしん、と音がすれば飛びかかってきたリーフマンドラが地面を転がった。もしかして、勝ったんだろうか。

「って、そんなわけないよね!」

リーフマンドラはすぐさま起き上って蔓のような手を振り回してきた。とっさに盾で防御するけど間に合わなくて、足に痛みが走る。ぴりりと走る痛みに、ぞくりとしたこれはゲームじゃない。現実だ。戦って下手をすれば怪我をするし、死んじゃうかもしれない。どうしよう。怖い。でもこのまま盾で身を守ってもらちが明かない。このままなぶり殺されるのなんて嫌だ。絶対に。

「わ、私だって!」

盾を右手一本に持ち替えて、脚を肩幅まで開く。しっかりと腕に力を込められる態勢をとって、盾を全力で右から左に振る。遠心力がかかって腕が持っていかれそうになるのを両足を踏ん張って耐えて、間合いをつめる。そして今度は左から右に振る。空を切る音と鈍い音がやけに響くけど、怯んではいられない。盾は意外と重さがあるからか、リーフマンドラも相当痛いらしい。

「わっ!」

でも魔物が一方的に殴られ続けるわけがない。伸びてきた蔓に私は反射的に後ろに下がった。蔓が髪を掠めるけど、それ以外は何ともない。アルヴィンさんに言われて俊敏さを上げ続けてきたからだろうか。自分でもびっくりするくらいの反射神経だった。
 今度アルヴィンさんに会ったらお礼を言いたい。そしてお礼を言うためにもこんな所で死ねない。盾を強く握って、盾で殴りかかる。何度も何度も、相手が倒れるまで。ちょっとかわいそうな気がするけど、私はまだ死にたくない。全力で盾を振り続ければリーフマンドラもやがて力尽きて、地面を転がって動かなくなった。

 「か、勝ったの……?」

肩で息をしながら呟くけど、誰も答えてくれない。当然だ。ここには私しかいないんだから。
 呆然としているとポケットが光って、私は光源のリリアルオーブを取り出した。リリアルオーブがいつもより強い力を放ってる。これは、もしかして……

「レベルアップしたのかな」

リリアルオーブが光ったということは、それだけ強くなったっていうこと。今まではみんなの力で強くなったけど、今のは自分の実力。みんなの協力で強くなった体ではあるけれど、それでもこの勝利が自分の実力であることには変わりない。そう思うとなんだかすごくすごく、嬉しくて嬉しくて。

「やりましたよアルヴィンさん!」

口に出して報告してみるけど、誰も聞いてるわけがない。でも誰も聞いてなくてもいい。この喜びを自分の内側にとどめておけなくて、声に出してみたかっただけなんだから。
 胸を躍らせながら、リリアルオーブを見つめる。今までは「いざという時に自分の命を守れるように」とのアルヴィンさんのアドバイスで、俊敏と防御力を中心に上げてきた。でもこうして自分で戦うなら攻撃力も必要だろう。そう思ってリリアルオーブを成長させようとした時。再び茂みから音がした。今度はさっきみたいに小さな音じゃない。いくつもの音が重なって大きな音になってる。おそるおそる振り返ると、茂みの奥でリーフマンドラの目がいくつも光って。

「い、いやあああああああ!」

思わず全力で森の方へと逃げだした。いくらなんでもあの数相手に一人じゃ戦えない。私はリリアルオーブをポケットに突っ込んで全力で走った。俊敏を上げ続けていた成果か、リーフマンドラの足音は段々遠ざかっていったけど、やっぱり怖いものは怖い。やっぱり私は、ただの中学生なんだから。





たった一人の初陣は、勝利の余韻に浸る暇もなかった。




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