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「ここからラタトスクさまの所へいけるわ」
「本当にここからギンヌガ・ガップへ繋がっているのか?」
まだアクアのことを信用していないのか、リヒターはアクアを睨みつけたが、彼女はそんなリヒターに対して笑みを浮かべている。
アクアが案内してくれたのはアルタミラの北にある異界の扉だった。
ここから本当にギンヌガ・ガップに行けるのだろうか。
訝しげに辺りを見回すリヒターの隣でリンネは首を傾げた。
「ここって異界の扉だよね?前来た時はここからシルヴァラントに行けたんだけど……」
この遺跡は確かシルヴァラントとテセアラを繋ぐ場所だったはず。
以前訪れたときはギンヌガ・ガップらしき場所も、ラタトスクらしき者もいなかったがどういうことだろう。
「二つの世界は今は地続きだからね。世界再生で何か変化があったのかな」
どうやらアステルもこの異界の扉を知っているらしい。
地面に倒れた巨大な石や、描かれた不思議な模様を興味深げに観察している。
分野が違うとはいえ、学問を究めようとする者だからだろうか。
その姿はどこかリフィルに似ているような気がする。
「とにかく行ってみるしかないよね」
「案ずるより産むが易し、ね」
「そうだね。調べてみる価値はあると思う」
アステルとアンジェラに続いて言うと、リンネはリヒターを見た。
彼も唯一の手掛かりがアクアだということは分かっているのだろう。
アクアを一瞥すると鼻を鳴らして分かっている、と呟くように言った。
「それじゃ行くわよ」
アクアが手を上げると、それを合図にしたように地面に描かれた模様が光を放つ。
かと思うと周囲は光に包まれ、次に目を開いた時にはリンネ達五人は全く見知らぬ場所にいた。
薄暗い道を照らすのは松明のような朱色の光。
螺旋状になっている細長い道は奈落に繋がっているかのように下へ下へと続いており、先は見えない。
「うわ、これって骨だ……!」
「当たり前じゃない。ここは魔物の墓場だもの。ラタトスクさまは魔界ニブルヘイムへ続く扉の前にいらっしゃるのよ」
転がっていた骨に足をぶつけたアステルを見て、アクアは小馬鹿にしたように笑った。
薄暗いこの場所でアクアの体が微かに光って見えるのは、彼女がセンチュリオンという特別な存在だからだろうか。
辺りを微かに照らすアクアの身体はとても綺麗だ。
「そこで世界を守ってくれてるんだよね」
「そうよ」
リンネが確認のために問いかければ、アクアは当然だと言わんばかりに胸を張って頷いた。
もうすぐでラタトスクに会える。
そう思うと嬉しい半面緊張もする。
レインから引き継いだ記憶の中に精霊達との記憶もあるが、ラタトスクに関する記憶だけは薄い。
どんな姿だったか、どんな性格だったのか、あまり思い出せない。
だがこれはリンネがレインの記憶を拒否し、リンネであることを選んだ結果なので仕方のないことだろう。
リンネはリンネとして、ラタトスクに会いに行くしかない。
「どうする?ラタトスクさまはこの先よ」
「ありがとう。ここからは僕達だけで行く。案内してくれてありがとう」
アクアの言葉にアステルは笑顔で頷いた。
彼の言葉が意外だったのだろうか。
アクアは大きく目を見開き、続いてアステルを睨みつけた。
「何よ、用がすんだらさっさと帰れっていうの?人間のくせにアタシに命令しないで!」
「でもどうなるか分からない以上、危険よ?下手したらあなたは人間達にラタトスクを売り渡した裏切り者と思われるかもしれないし」
「ラタトスクさまはそんなに器の小さいお方じゃないわ!」
にこやかなアンジェラの言葉にアクアは益々気を悪くしたらしい。
噛み付くようにアンジェラに詰め寄った。
二人の睨み合いが……というより、アクアが一方的に睨み、それをアンジェラが笑顔で受け止めているという図は、アクアが先に折れることで終わりを告げた。
「……でも、怒らせたら危険よ」
小さく息をはいてアクアが見たのはラタトスクの間に続く道。
魔物の王、というくらいだ。
温厚な性格という確率は低いだろう。
気を引き締めて行かなければ。
「だから、気をつけてね」
言ってアクアはリヒターに向かって笑みを浮かべた。
アンジェラに対する態度とリヒターに対する態度が違うのは気のせいだろうか。
「なんかアクアってリヒターには優しくない?」
「助けてもらったからじゃない?恩を感じてるとか」
隣のアステルに問えば彼も同じことを思っていたのか、アクアとリヒターを示して笑みを浮かべた。
センチュリオンといえど、人やエルフ、ハーフエルフと心は同じなのだろう。
リヒターの傍で宙を泳ぐようにして付き添うアクアの横顔はどこか楽しそうだった。
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