ちょうどいい距離
「……水じゃ酔えないよ」
「それ以上酔わなくていい」
ナンシーは呆れたような声を出す。
その隣で、完全に出来上がってしまっているロナルドが唇を尖らせた。
「いーじゃん、ナンシーには関係ないっしょ? オレがどれだけ酔おうとさ」
「いつもめんどくさい酔っ払いになったあんたを介抱するのは、誰だっけ?」
「むー」
ロナルドは机につっぷして、意味のない声を上げた。
まるで子供のような仕草にナンシーの口元からは微笑みがこぼれる。
いつもしっかりとセットしてある髪も服装も崩れ、「かっこいい」より「だらしない」という言葉が良く似合う。
そんな彼の姿を見ることが出来る女は、長年連れ添ったナンシーだけだった。
「あ〜……合コン行きたい」
「懲りないねえ」
ロナルドにとってナンシーは「女」ではない。
ナンシーにとってもロナルドは「男」といえない。お互い重々承知している。
女として見られていない、そのことは彼女にとって多少は不愉快な現実だった。
しかし、これでいい。
彼との距離は、これ位が、ちょうどいい。
こうして酒に付き合うと、半分くらいの確立でロナルドの愚痴を聞かされることになる。
ナンシーはその隣に、無言で座ってればいい。
限度を越えそうだと思ったところでさり気無く水を出し、ロナルドの文句をするりとかわす。
そうして夜が明ける前に別れて。
仕事場でたまに顔を合わせれば、次の約束を取り付け。
ゆるゆると続く、甘くもなければ浅くもないこの関係。
「……もう寝る!」
「勝手にどうぞ」
隣で本格的に寝に入ったらしいロナルドをちらりと見やり、ナンシーは自分のグラスを傾ける。
そして一息。
きっとこの光景は、この先も何度だって目にすることになるだろう。
彼女はこの関係に、他の死神に対する優越感すらおぼえていた。
END