02
「ここにいるクズどもが今まで何勉強してたかは知らねぇが、おまえらがやってたことは無駄だ!! 一番いい武器は俺がもらうことになった!! 以上!!」
「以上じゃねええええ!!」
衝撃的な自己紹介をした百夜優一郎に、一瀬グレンの蹴りが炸裂する。
「おまえは普通科で一体何を学んできたんだ!!? 協調性ねぇ奴はやめさすっつったろ!! このアホが!! クズ!! 童貞!!」
「童貞関係ねええええ!!!」
未だに教壇で騒いでいる転入生と担任に、生徒たちが不安の色を浮かべる。
あの二人もそうだが、もう一人、注目の的になっている人物がいた。
アニェーゼ・クラウティス。壊滅した後の世界では珍しい、外国人だ。
とは言っても、水色の髪をした外国人など、見たことがない。彼女に関しては、軍の機密事項になっていることが容易にわかった。
一人の生徒が、アニェーゼをちらりと見る。
あれだけぎゃあぎゃあと騒いでいるのに、アニェーゼは顔色ひとつ変えずに立っていた。
生徒たちなどまるで居ないかのように、教室全体を見つめる。
本当に不思議な子だ、と誰もが思った。
「ああもういい、座れ馬鹿!」
優との喧嘩をやめたグレンが、優、アニェーゼ、同じく転入生の早乙女与一の席を伝える。
幸い、アニェーゼの席は一番後ろだった。授業中に注目を受けることは少ない。
優が後ろの席の生徒、君月士方とまたしても喧嘩を始めたときは、クラス全員同じことを考えた。
今回の転入生、ヤバイ。
「グレン中佐」
君月が執務室から出ていったあと、入れ替わりでアニェーゼが入ってきた。
「なんだ、おまえもかよ。ったく、忙しい奴らだな」
「……なぜ、今なんですか」
グレンの手が止まる。しかし、目だけは書類に向けられたままだ。
アニェーゼは構わず続ける。
「入れようと思えば、あの教室に入ることはいつでも可能でした。ですが、グレン中佐は二年遅らせた。それはなぜですか?」
答えは返ってこない。
「…百夜優一郎、ですか?」
「その情報は、お前が吸血鬼を殺すのに必要な情報か?行け」
「ですが、質問に対しての回答がまだです」
「行、け」
グレンが念を込めて言うが、出ていく気配はない。返事を聞くまで帰らない、といった顔だ。
めんどくせえなぁ、とグレンが呟いて立ち上がると、一気に間合いを詰めた。
その動きは、確かに早かった。
が、人間の身体能力は、吸血鬼の七分の一。グレンの動きなど、軽く避けてしまう。
それが、油断の原因となってしまった。
アニェーゼが避けた瞬間に、グレンは鬼呪装備を発動させた。
グレンの位置は完全にアニェーゼの死角で、実戦経験の少ないアニェーゼは、それに対応することができない。
結果、見事アニェーゼ・クラウティスは、窓から吹き飛ばされることになってしまったのだ。
「ったく、どうしてこうもガキはめんどくさいのが多いのか……」
静かになった部屋で、再びグレンは書類と睨み合いをする。全開に開かれた窓からは、肌寒い風が入ってきていた。