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「ケホッ、ケホッ……」
「結構やばいんじゃ……」
狭い室内は煙で溢れ、目の前が真っ白になった。
どうしてこんなことになったのか。
事は、数刻前に遡る。
ロゼを追って奥へ進んだスレイたちは、遺跡の仕掛けを触ってしまったロゼにより、室内へ閉じ込められてしまった。
それに加え、いきなり室内に煙が流れ込んできたのだ。
煙を抑える方法を探すが、一向に見つからない。
「うわ、真っ白……ちょっとミクリオ、どうにかしてよ」
「無理だ!せめて、風を操れる天族がいたら良かったんだが……」
言い合いをしている間にも、視界は徐々に白く染められていく。
そんなとき、スレイが「あっ!」と声をあげた。
「床にボタンみたいなのがあるはずなんだ!それを踏めばいいんじゃないかな」
なるほど、そういうことか。
リズは床のボタンを探そうと思ったが、体が耐えきれなかった。
リズ__正確にはアリアの体が、煙で侵されていく。
とりあえず、毒などの直接人間の体にとって有害なものは入っていないだろう。
だが、煙は煙。
大量に吸えば、だんだんと意識は遠退いてゆき、最悪の場合、待っているのは死だ。
咳き込んだリズは、そのまましゃがみこむ
「リズ!」
ミクリオが駆け寄って背中をさするが、リズは咳き込んだままだ。
「……リズ、聞きたいことがある」
「…こんなときに、何?」
「君は一体、何者なんだ?」
「…………………」
「君はアリーシャに、自分は天族だと言っていた。だが、君はこの煙の影響を受けている。つまり、天族なのはリズ、君の精神だけで、肉体はすべてアリアのものなんだろう?」
「……………………」
なぜ、そんなことができるんだ?
そんな事例は、聞いたこともない。
「……ああ、ボクとアリーシャの話聞いてたの、ミクリオだったんだ。てっきり、スレイだと思ってたよ」
苦しそうに肺のあたりを押さえながら、リズは薄ら笑いを浮かべる。
「その辺、一度スレイたちにも話さないとなあ」
その時、煙が収まり、視界が広がっていく。
同時に、閉ざされていた出入り口も開いたようだ。
スレイとロゼが、仕掛けの解除に成功したのだろう。
「大丈夫?立てる?」
近づいてきたスレイが、手を差しのべる。
「…あのねスレイ、ボク、」
ロゼの悲鳴が聞こえたのは、その時だった。
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