16


ジェームズたちは部屋を片付け食堂から貰ってきた夕食を並べた。つまみ食いをしようとするジェームズの手を叩いたリーマスがベッド周りの片付けをするようピーターに声をかけた。シリウスは自分のベッドであぐらをかき、じっとしていた。

「話しか聞いたことなかったけど綺麗な子だね」
「うん!人形みたいだった!」

リーマスとピーターは話だけ聞いていた噂の彼女を初めて見た。ピーターは八重の姿を思い浮かべ少し顔を赤くした。

「リリーは八重と友達だけど、どこまで知ってるんだろう。全部かな」

ジェームズが口を閉じたままのシリウスの横に座った。スプリングが沈み、ギシ、と音が鳴った。

「おかしいと思ってた」
「なにが?」
「リリーが急に猫を飼い始めたのも、一緒に校長室に行ってたのも」
「まぁね〜」
「なんで魔女だって黙ってた?俺らに姿を隠してた意味は?」
「んー……っとシリウス、僕らの悩みがもうすぐ解決するみたいだ」

溜め息をつくシリウスにジェームズがウインクをすると、部屋のドアがガチャリと音をたてて開いた。そこにはビアンカを抱いているリリーが不安そうな顔で立っている。ジェームズ、シリウス、リーマスはすぐに杖を振り呪文を唱えた。

「人避け、防音、目眩ましの呪文をかけたから大丈夫だよ」

リーマスが言うとビアンカはリリーの腕から降り、ポンっと音をたてて元の姿に戻った。八重は誰かに腕を引かれたかと思えば、すぐに暖かなものに包まれた。

「シリウス、八重びっくりしてるから」
「本当にあなたって手が早いわね」

戻った瞬間、シリウスは八重を抱き締めた。今まで触れてきた女の子の中でも一番細く、少しでも力を入れたら壊れてしまいそうだと思いながらもシリウスはその腕に力を入れた。八重もシリウスから香る爽やかな匂いに安心し笑みを溢した。数秒後、咳払いをしたジェームズにより二人は体を離した。

「それじゃ、八重は話してくれる気になったってことでいいかい?」

ジェームズが聞くと八重は頷いた。

「うん、話すね。でもその前にお腹すいたからこれ食べてもいい?」

お腹に手を当て照れたように笑う八重はテーブルに並べられた食べ物を指差した。そのつもりで用意したんだと言うジェームズの言葉で夕食が始まった。シリウスは嬉しさと戸惑いが混じった複雑な表情をしていた。食事が終わると、シリウスのベッドに八重とリリー、ジェームズのベッドにジェームズとシリウス、ピーターとリーマスは自分のベッドに腰掛け話を始めた。

「君は魔女じゃないって言ってたけど、本当は違うよね?」

ジェームズが優しく問いかける。皆が視線を向ける中、八重は首を一回縦に振った。

「正しくは"一般人"ではない、だけど」
「前も思ったけど、その一般人じゃないってどういうことなんだよ」
「貴方たちの予想した通り私にも魔力は備わってる。だけど、魔女ではないんだ」

魔力はあるが魔女ではない。その言葉に彼らは首をかしげる。

「ごめん、僕には意味がさっぱり」
「私ね、魔法学校に通ってないの。だから魔法は使えないし使い方も呪文も分からない。箒で空も飛べないし杖も持ってない」

八重はリリーの杖を借りて手首を動かして見せたが、小さく風が吹いてリリーの髪の毛が靡いただけで何も起こらなかった。

「マホウトコロって格式の高い所なの?選ばれた人しか通えない、とか?」
「そうそう!どんなに本を読んでもマホウトコロについて書かれてるものがないんだ!」
「私が魔法を選ばなかっただけで、魔力があれば誰でも通えるよ。ただあそこには魔法がたくさんかかってるから、他の魔法学校に比べて閉鎖的な部分はあるかもね」

八重は肩をすくめて笑った。ジェームズとシリウスは日本にまつわる本が少なかった理由に納得したが、魔法が使えないとなれば噴水の謎が残る。

「あ、あの……魔法を選ばなかったって言うのは……他にも選ぶものがあったってこと?魔法学校に通わないで、他の学校に行ってたの?」

指をもじもじさせながら質問するピーター。シリウスたち三人はうんうんと頷く。八重は杖をリリーに返し、一度深呼吸すると意を決したように口を開いた。

「私、魔力以外の力ももってるの」

ピーターとリーマスは首をかしげ、シリウスとジェームズはダンブルドアの言葉を思い出した。

「これは日本特有の力だから他国に漏れないように口外したりしちゃいけないんだけど。リリーは色々あって小さい頃から知ってるし、今回は特別に許可をもらったから話すね」

全員が八重の話を集中して聞いていた。

「私は忍者なの。呪力が体に流れてて、それをエネルギーに忍術を発動させることができるの。忍術は魔法に似てるけど杖は必要ないんだ」

初めて聞くワードに頭を悩ませながらも理解しようと真剣なシリウス。ジェームズとリーマスは羊皮紙にメモを取りながら聞いていた。

「学校に通って忍術を学んで、里や一般人を護るのが私たち忍者。この力を使って悪いことを企む人が少なからずいるんだ」
「なぁ、さっきから言ってる忍者ってなに?忍術ってやつと関係してんの?」
「多分、忍術を使う者の総称が忍者で、忍術ってのは魔法みたいなものかな?違う?」

リーマスの考察に答えず、八重は小さな笑みを浮かべると"変化"と唱えた。リリーの隣にいた八重が一瞬でシリウスへと変化し、ジェームズはベッドから立ち上がって叫んだ。

「え、えええ?!シリウスが二人!?」
「ポリジュースも飲んでないのにどうやって…」
「この人たちなにもわかってないわ。八重、いつもの姿になってあげたら?」

リリーがそういうとシリウスになった八重は白猫へと変化した。いつものビアンカの姿だ。

「アニメーガス、じゃないってこと?」

リーマスが呟くと八重は元に戻った。

「忍者は変化できるからアニメーガスになる必要がないんだよ」
「それが忍術ってやつか?」
「まぁね」
「じゃあ、八重とリリーが噴水から出てきたのも、忍術?」

ジェームズは思い出したようにそうだ!と手を打った。

「僕とシリウスは、ホワイト家の噴水から君たちが出てくるところをこの目で見た。綺麗な水の張った噴水から、まったく濡れずにね」
「あなたたち、不法侵入よそれ」

キッと睨むリリーの視線から逃げるようにジェームズは明後日の方向を向いた。八重はリリーを宥めながらシリウスと目を合わせた。

「水遁の術って言ってね。同じ呪符を張り付けてある水から水へ移動が出来るの。術を発動するには呪力が必要だから一般人だけでは移動出来ないけど」
「それは納得いった。もう一つ、俺たちジェームズの透明マントを被ってたから誰にも見つからないはずだったんだ。なのに八重は俺たちの方を見て"誰?"って言った。八重には見えてたのか?」

ジェームズがトランクの中でぐしゃぐしゃになっていた透明マントを取り出した。それをピーターに被せ姿を消すと、八重は驚きもせずに説明した。

「気配が隠れてないから誰かがいるのはすぐ分かるよ。あの時もそう。気配があったから」
「誰がどこにいるかまでは分からない?」

リーマスが質問すると、八重は目を閉じピーターにどこかへ隠れろと言った。ピーターは透明マントを被ったまま足音を立てずに八重の腰掛けるベッドの後ろに立った。透明マントを被ったまま移動したため、シリウスたちもピーターが何処にいるかは分からなかった。

「もういいかな」

八重は目を開けると辺りをぐるりと見回した。

「白眼」

刹那、八重の顔に血管が浮かび上がり瞳が白く変化した。シリウスたちは何が起きているのか分からずその様子をじっと見ていた。白眼になった八重が後ろを向き、何もないそこを一瞥すると口角をあげた。

「見つけた」

ベッドに膝をつき空中に腕を伸ばした八重は風を掴む。バサッという音とともにピーターが姿を現し、八重は瞳を元に戻した。ジェームズは目を見開いて驚いた。

「なんでそこにいるって分かったんだ?」
「忍術だよ。透視しただけ」
「へぇ、魔法とは違って面白いのが多いね」
「ねぇ八重、他の忍術も見せてくれないかい?」

ジェームズがキラキラした目で八重に頼み込み、よし、と意気込んだ八重はダンブルドアたちに見せたように忍術を披露した。彼らは杖なしに繰り広げられる忍術に終始驚きの声をあげていた。

「すごい!感動したよ八重!」
「俺ら決闘なんかしたら負けるんじゃねーの?」

八重はジェームズやピーターを背中に乗せると窓からその身を乗り出した。悲鳴を上げる彼らを八重は笑い飛ばし、壁を駆け上ったり下りたり、ホグワーツの屋根や木を飛び回り散歩を楽しんだ。足をガクガクさせながらも楽しかった!とはしゃぐジェームズ。部屋は大いに盛り上がる。

「どうだジェームズ、女におぶられた気分は」
「最高だよ。八重がいれば箒がなくてもどこへでもいける!」
「八重を箒扱いしないで」

リリーに頭を叩かれ冗談だよとジェームズは笑った。少し休憩をしよう、とリーマスが全員に紅茶を淹れた。鼻孔をくすぐる甘い香りに気持ちが安らぐ。ソーサーからカップを持ち上げ、紅茶を一口飲んだリーマスがあっ、と声をあげた。

「ねぇ、大事なこと忘れてるよ」
「なんだよ大事なことって」
「なんで八重が姿を変えてここにいるかってこと」
『あ!』

忍術に興奮しすっかり忘れていたそのこと。八つの目玉を向けられた八重は紅茶をゴクンと飲み干すと、カップをベッドサイドテーブルに置きホグワーツに来た理由を話始めた。例のあの人の名前を出すと、部屋は先程の盛り上がりが嘘だったかのように静まった。

「たしかに、日本が協力してくれるってなると心強いね」
「でもなんで八重が…危ない目に合うかもしれねーのに」
「あなたたちが呪いをかけたりしようとしなければここは一番安全な所よ」

リリーの尤もな意見に仕掛人たちは苦笑いをした。

「それで、情報は集まった?」
「まぁなんとか。誰の親が死喰い人とか例のあの人を崇拝してるとか…情報はすでに日本にも流してあるから監視してると思う」
「俺も協力する」
「シリウスだけじゃないさ、僕たちみんなそのつもりだよ」

八重は全員を見渡しありがとうと笑顔で礼を言った。

「でもこれだけは約束して。このことは内密にすること。忍術のことも、口外は禁じます」

5人は大きく頷いた。時間を確認するともう夜も遅かった。おやすみ、と言い八重とリリーは部屋を出ていった。




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