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グリフィンドール塔を走り、太ったレディの前で立ち止まったビアンカは一鳴きする。レディは微笑むと談話室へ入れる隙間を作り、ビアンカは丸い入り口をピョンと飛び越えて中に入った。夕食時で誰もいないと思っていたそこには悪戯仕掛人が残っていた。ジェームズとシリウスとリーマスとピーター、この4人にはビアンカも何回か悪戯のターゲットにされそうになったが、その度にリリーが助けてくれていた。

「絶対にいた!名前があったんだ!」
「見間違いじゃないの?」
「んな訳ねぇ!なんでか知らねぇけど、スニベルスの名前の隣にあったんだ!」
「じゃあなんで地図を持たずに行っちゃうかな。結局見失っちゃったんでしょ?バカだねシリウス」

仕掛人はなにやら揉めているようだった。八重はリリーが下りてくるのを待とうと、仕掛人から離れた場所にあるベロア生地のクッションに身を沈めた。

「もう一度探してみたら良いんじゃないかな…あの、ほら、今ほとんどの生徒が大広間にいるだろうし…」

ピーターがそういうとシリウスは急いで忍びの地図を広げた。そしてシリウスたちの顔はすぐに驚いたものへと変わった。

「ここにいる?!嘘だろ?!」
「でも僕達以外に人なんて…」

仕掛人たちは談話室をぐるりと見回すと、クッションの上で身を丸くするビアンカに目を向けた。

「もしかして」
「いやありえない!彼女は人間だろ?」
「でも僕らは動物にもなれる。ビアンカ、ちょっとごめんね。ペトリフィカス・トタルス!」

うとうとしていた八重は急に体の自由が奪われ目を開けた。目の前には杖を構えた悪戯仕掛人、逃げようにも動けない八重は目だけをキョロキョロと動かした。

「ちょっとごめんね。スペシアリス・レベリオ」

リーマスが呪文を唱えるがなにも起こらない。

「うーん。ホメナム・レベリオ!」
「リビアルユアシークレット!」
「こんな可愛い猫が闇の魔術なわけないでしょ」
「じゃあなんだって言うんだよ」
「……あのさ、金縛りにかかってるから呪文がきかないんじゃないかな」

腕を組んで悩んでいたジェームズとシリウスだが、またまたピーターの言葉で閃いたシリウスが動いた。ビアンカを抱き上げるとジェームズに手渡し、しっかり持ってろと言うとシリウスはゆっくりと杖を振った。

「フィニート」

金縛り呪文を終わらせたシリウス。八重はジェームズの腕の中で暴れることなく大人しくしていた。忍術で変化している以上、どんな正体を暴く魔法をかけられてもバレないからだ。くあっと欠伸をしたビアンカの頭をジェームズが優しく撫でた。

「じゃあ次ピーター、なんか知ってる呪文唱えて。リリーの猫だから傷付けるようなことはするなよ」
「え、ええと……リクタスセンプラ!」
「おま、笑わせてどうすんだバカ」

くすぐりの術をかけたピーターにシリウスは呆れた。だがこの呪文は正体を暴かせる呪文ではなかったため、八重はお腹がよじれるくらい笑っていた。

「俺猫がこんなに笑ってるの初めて見た」
「これは笑ってるのかな」
「それよりこの状況をリリーが見たら僕たち殺されそうだけど」

リーマスは呪文を終わらせようとしたが、ビアンカの様子がおかしいことに気付いた。

「ちょっと、ビアンカ大丈夫じゃないかも」
「フィニート!マダムポンフリーに見せにいこう!」
「リリーに、怒られちゃうかな!?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃない!」

ジェームズがぐったりしているビアンカを抱え医務室に向かおうとすると、談話室にポンっという音が響き、それと共にビアンカは煙となった。

「けほっ。ちょ、これ本当にリリーに殺される」
「うわーーー!!リリーー!!ごめんね!!」
「泣くなピーター、僕がビアンカの変わりにリリーのそばにいるから大丈夫さ!…っていうか、あれ?シリウス?」

言葉を発しないシリウスを不思議に思ったジェームズはシリウスの視線を辿り、リーマスとピーターもそちらを向いた。

「……え?」

仕掛人は目を丸くした。そこに横たわるのが紛れもない八重だったからだ。ジェームズとシリウスはビアンカが八重だったことに、リーマスとピーターはビアンカが人間になったことに驚いた。八重はくすぐられたことで気を上手く保てなくなり、思わず術を解除してしまった。

「(どうしよう。鍛練が足りなかった)」

目を閉じていてもわかる4人の視線に、八重は気を失ったフリをした。誰も言葉を発することなく沈黙が流れる部屋に、タンっタンっと階段を下りてくる音が響いた。

「ねぇ、誰か私のこと呼んだ?…って貴方たちなにしてるの?」

タイミングが良いのか悪いのか、落ち着きを取り戻したリリーがピーターの叫び声を聞いて談話室におりてきた。しかし質問をしているのに誰も答えず、振り向きもしない態度にリリーは眉間にシワをよせ、4人の元へ歩いた。

「ねぇ、聞いてるの……っ八重!!?」

目を閉じ横たわる八重を見つけたリリーは、ヒュッと息を飲みすぐに傍に駆け寄った。リリーが八重に触れると、八重は猫に変化をし直して女子寮へと駆け込んだ。仕掛人とリリーは八重の姿を追い女子寮の階段を見つめたが、すぐにリリーは仕掛人へと視線を移した。その視線に気付いたジェームズはリリーの肩を掴み問い掛ける。

「リリー。なんで八重は猫になんてなってたんだい?」
「そんなことより八重になにをしたの?!私がいないのを良いことに呪いをかけたの!?」
「ご、ごめんねリリー。くすぐり呪文かけたらなんか…」

ピーターの言葉にリリーはジェームズの手を払い、額に手を当て溜め息をついた。シリウスは黙ったままだ。

「なにか事情があるんだとは思うんだけど、あの子は八重で、訳あってリリーの飼い猫としてここにいるってことでいいかな?」
「……えぇ、その通りよリーマス。ダンブルドアに言いにいかなきゃ」
「わしに、なにを言うのかねリリー」

いつの間にいたのだろうか、ダンブルドアは窓際の椅子に座り紅茶を飲んでいた。そこにいた全員がダンブルドアの急な登場に驚いた。しかしホグワーツ生6年目ともなれば順応も早い。

「ダンブルドア校長先生。あの、八重のことなんですけど…この4人に…」

リリーはダンブルドアに近付きチラっと後ろにいる4人に視線をやる。4人はそれぞれリリーと目を合わせないようにした。

「…味方というものは多いほうがいい。時にそれが仇となることもあるがの」

ダンブルドアは杖を振り紅茶を片付けながら穏やかにそう言った。

「八重と話し、どうするか決めなさい。わしは君たちが決めたことを否定せんよ」

椅子から立ち上がると、廊下へと続く階段へ歩きだしたダンブルドアは、その階段を一段上がると振り返りこう言った。

「そうじゃ。ワシは忘れたいことがあったら、忘却術に頼ることもある」

ダンブルドアは悪戯に笑うと談話室を出ていった。

「私、八重のところに行ってくる」

リリーが女子寮の階段をあがって行った。仕掛人は寮生が帰ってくるのを待ち、リリーのルームメイトに伝言を預けると部屋に戻った。




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