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この日の仕掛人の朝は早い。と言っても張り切っているのはジェームズとシリウスの二人だけで、リーマスとピーターはまだ寝ている。昨日完成した薬をボールに注入し、"検知不可能拡大呪文"をかけた袋にそれを詰め込んだジェームズ。シリウスは忘れてるぞ、とお菓子を数量袋の中に放り投げた。
誰もいない廊下をオレンジと黒をメインに、赤や青、黄色や緑のペンキ爆弾で飾り付けをする二人。ハロウィンは毎年フィルチがいつも以上に目を光らせてる為、誰も起きていない時間帯を見計らって学校中を賑やかにしている。このペンキはなにをしても丸一日落ないよう、シリウスとジェームズが改良した最新作だ。レイブンクロー塔や地下廊下にも飾り付けをし、朝の悪戯をやり終えた二人はざわつく大広間にやってきた。

「あなたたち毎年毎年…よく飽きないわね」

後から入ってきたリリーが呆れた顔で呟き、ジェームズの頬に付いたペンキを指摘した。落ちないそれを気にしていないジェームズは、花を咲かせたような笑顔になった。

「リリー!トリックオアトリート!」
「ないわよ」
「え!?悪戯OK?」
「バカね、放課後までハロウィンの悪戯は禁止になったでしょ。あなた達のせいで授業受けられない子がたくさん出るから」
「そうだったっけ?」

とぼけるジェームズにため息をついたリリーは大きな欠伸を一つこぼす。

「寝不足かい?」
「まぁ、そんなところよ」

リリーが友達に呼ばれ席についたので、ジェームズもシリウスの横に座って食事を始めた。授業を受け、廊下でスネイプとすれ違えば呪いを掛け合い、ほかの生徒はいつ仕掛人に声をかけられるかビクビクしていた。そして今日の最後の授業が終わり、ジェームズとシリウスは顔を見合わせると一目散に教室を飛び出した。置いていかれたリーマスとピーターは、荷物を部屋に置いてから大広間に向かった。

「「トリックオアトリート!!」」

最初のターゲットは初めてのハロウィンを経験する1年生。お菓子を持っていない者には容赦なく例のボールを投げつけた。中の液体をかぶった者は大人びいた顔つきになる。薬は成功のようで、ジェームズはリーマスとハイタッチをした。液体の正体は老け薬。いくつ年をとるかはその人次第で、あまり変わらない、親くらい、老人…とさまざまだ。夕食の時間になると、お菓子の有無に関係なくたくさんの人に魔法をかけたシリウス。魔女、吸血鬼、フランケン、ゾンビ、悪魔、天使などいろいろなコスチュームになる魔法だ。大多数が仮装済みになったところでジェームズが声をあげ、生徒はみなジェームズに注目した。

「あー!みんな聞こえるかい?今日はハロウィンだ!思う存分楽しもう!ダンブルドアに許可は取ってる……さぁハロウィンパーティーの始まりだ!!!」

シリウスとリーマスが杖を振ると4つのテーブルが消え、代わりに丸テーブルが何個も現れその上にたくさんのご馳走が乗る。立食パーティのようにするため、屋敷しもべにも協力してもらったようだ。軽快なリズムが流れ踊りだすもの、恋人と優雅にダンスをするもの、歌うもの、それぞれがこの瞬間を楽しんでるようでシリウスは満足げに笑みを浮かべた。しかしまだまだ盛り上がっている時間帯、シリウスはそっと大広間を抜けようとした。

「どこへ行くんだシリウス」
「あーちょっと…呼ばれてて」

そっと扉を開けようとしたシリウスの肩をリーマスが叩き、シリウスは苦笑いをした。ジェームズもボールを軽く上に投げ、上手くキャッチしながら近付いてきた。

「…また?今日くらいはやめとけばいいのに」
「いや、うん。すぐ戻る」

呆れた顔のジェームズとリーマスから目を反らしたシリウスが扉に手をかけた時、大広間に一羽の若いフクロウが飛んできた。長い距離を飛んできたのだろうか、フラフラと蛇行飛行し足に持っていた手紙を落とすとシリウスにおやつをねだった。シリウスが近くのテーブルにあったベーコンをひと切れ渡すと、フクロウはふらふらしながら外へと飛び立った。

「誰から?」
「……八重だ!」

差出人の名前を見た瞬間、シリウスの心臓はこれでもかというぐらいバクバクと鳴り、手は少し震えていた。

「彼女なんて?!」

ジェームズも内容が気になるようで隣から手紙を覗き込んだ。封を開け二つに折られた手紙を開いたシリウスは、その内容に口元を緩めた。


親愛なるシリウスへ

私は甘い香りよりもあなたの爽やかな香りが好き。
次に会えるのを楽しみにしてます。

愛をこめて 八重



「君、ほかの女の匂いをつけてることバレてるみたいだね」
「…俺、やっぱ女遊びやめる」
「それがいいよ。愛も込められちゃってるしね」

リーマスのその言葉にジェームズは笑った。

「つかなんで八重は俺が女遊びしてるって分かったんだろ」
「女の勘は鋭いからね。甘く見てると後悔するよ」
「…リーマス、お前がなにを経験したのか気になるわ」

シリウスは約束をすっぽかし、そのあとも機嫌良く色々な魔法を使って周囲を賑わせた。今年のハロウィンも大成功のようだ。







次の日、約束していた女の子に平手打ちをされているシリウスをたくさんの人が見ていた。近くにいた人の話によると、シリウスがもう関係を終わらせようと話し、それに怒った女の子がシリウスを叩いたという。
あの手紙以降、八重から度々返事がくるようになり、その度にシリウスは頬を赤くして談話室に帰って来た。それでもシリウスは毎日機嫌がよく、ホグワーツでは″シリウスに本命の彼女ができた″と噂になっていた。

「シリウス…ほっぺた傷になってるよ…」
「まじ?叩かれたときに爪が当たったんだ」

シリウスは痛みのない頬を触り目を細めた。

「どうだい?全て切れた?」

ジェームズが聞くとシリウスは首を横に振った。

「あとヴィクトリアだけ。あいつしつこい」
「ひどい言いようだね。使うときだけ使っといていらなくなったら不要ですって。生き埋めにされてもおかしくないよ」
「なぁ、俺リーマスになにかしたっけ?冷たい」

さらりと言うリーマスにシリウスは傷ついた振りをした。リーマスはそうかな?と軽く笑う。

「本当のことを言ってるだけだよ。でも彼女は手ごわそうだね」
「彼女はスリザリンで純血でブラック家と仲が良いらしいからね!繋がりは断ちたくないだろう」
「一番関係があったのもヴィクトリアだったみたいだしね」
「待て待て、本当にリーマスなに者だよ」

それから1週間後、スリザリン寮近くの階段に呼ばれたシリウス。もちろん相手はヴィクトリアだ。彼女はシリウスに対し、別れてもいいと言った。シリウスはホッと肩を下ろし、満足そうな顔でじゃあな、と彼女に背を向けて一歩を踏み出した。たが腕を引かれ振り返ったシリウスは、その唇にキスをされた。

「これで終わりにするから。ありがとう、愛してるわシリウス」

ヴィクトリアは妖しく笑うと寮へと入っていった。面食らったシリウスはその場に立ち尽くした。状況が読み込めると、シリウスはなんとも言えない気持ちで談話室へと戻ってた。部屋にいた仕掛人にシリウスが出来事を話すと彼らは嘲笑した。

「女の子相手になると隙が多すぎるんだよシリウスは」
「別れてもいいって言うやつがキスしてくると思わねーだろ普通」
「でもこれで八重一筋になれたね。僕を見習ってアピール頑張りたまえ!!」
「お前のやり方は絶対真似しない」

シリウスが枕をジェームズに投げ、それはジェームズの顔にクリーンヒットした。ジェームズが投げ返した枕は、シリウスが避けたためその後ろにいたリーマスに当たり、ジェームズの顔は青ざめた。




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