06



シリウスの部屋で、魔法カタログブックを片手にジェームズが声をあげた。新作の悪戯グッズを指差しながら性能を説明しても上辺の返事を返すシリウスにジェームズはやれやれとため息を吐いた。

「八重に嫌われた」

デートの日、やけに早く帰って来たシリウスに感想を聞こうと駆け寄ったジェームズに、玄関先で呟かれた言葉がそれだった。ジェームズが理由を聞けば、我慢出来なくなりキスを迫ったところ逃げられた、とシリウスは哀愁を漂わせながらダイニングテーブルに突っ伏した。
それから何度も謝罪の手紙を送るが、梟が返事を持ってくる事はなく5日目を迎えた。今まで見たことがないシリウスにジェームズの悪戯心が踊ったが、あまりにも落胆するシリウスを見てジェームズはカタログブックをパタンと閉じた。

「今日は天気が悪い!外に行こう!」
「むり、やだ。そんな気分じゃない」

外は朝から雨が降り、窓ガラスには風に吹かれた雨粒がついている。杖をくるくる回しながらため息を吐いたシリウスの腕を掴んだジェームズは、強引に外へと連れ出した。小雨で傘は必要ない、と二人は雨に濡れながら道を歩いた。気分じゃないと言っていたシリウスも元はアクティブだ、出てしまえば外を楽しむ。

「どこ向かってんの?」

ジェームズの後を着いて歩くシリウスは、アクビを溢しながら問いかけた。ジェームズは振り返ることなく答えた。

「滅びた名家の屋敷さ」

滅びた名家。その名の通り存在しなくなった一族、ホワイト家は純血の魔法族であれば誰もが知っている名前だ。ホワイト家はブラックやマルフォイに並ぶ名家だったが、本元の一人娘が純血と結婚せずにマグルと駆け落ちをしたことで滅びたと言われている。名家を潰したことで愚かな娘と言われ、純血主義の者達に忌み嫌われたことで有名だった。その屋敷に何をしに行くのかとシリウスが首を傾げれば、ジェームズも同じように傾げた。

「面白そうな所に行くのに理由なんているかい?」

いつものようにジェームズが笑うと、シリウスも久しぶりに歯を見せた。小雨は途中大粒になるも、目的地に着く頃には止んでいた。空は相変わらずの灰色だが、シリウスの心は少しずつ晴れてきていた。

「うわ、でっけー家」
「ここってホグワーツみたいにマグルには廃墟に見えるんだって。だから誰も近付かないらしいんだ」

広大な敷地に建つ大きな家。シリウスとジェームズは持ってきた透明マントを念のため被り、どっしりと構える邸宅の敷地に足を踏み入れた。門を潜ると噴水が二人を迎えるが、勿論水は噴射されることなくそこに溜まっているだけ。さっさと家の中に行こうとするシリウスをジェームズが止めた。

「ねぇシリウス、この水やけに綺麗じゃない?何年も放置されて今だって雨が降ってたのに。それに庭も、芝だって刈られてるし花も咲いてる」
「手入れするの面倒だから魔法掛かってんだろ。その効力切れてないだけ。ジェームズん家の庭だってそうじゃん」

シリウスが噴水に溜まった水に触れようと手を伸ばすと、水に模様が浮かび上がった。絵のようで文字のようなそれは薄く光りを放ち、シリウスとジェームズは急いで噴水から距離を取った。水面がユラユラと揺れている。

「人避けか?」
「分からない……でもあんなの見たことない」

光りはまだ収まらず、二人はそこから動けないでいた。しかし数秒後、シリウスとジェームズは口を開けて目を大きく見開き驚くこととなる。

「日本って本当に暑いわね。こっちなんか冬みたい」
「だから夏は毎年イギリスに来てるんだよ」
「じゃあ日本の夏に感謝するわ」

噴水から八重とリリーが出てきた。確かに水の張っているそこから出て来ているのに二人はまったく濡れていない。シリウスとジェームズは顔を見合せ眉を顰めた。

「それにしてもシリウスには後でちゃんと言い聞かせないとね」
「い、いいよ別に」

唐突に出てきたシリウスの名前に、本人はピクリと肩を動かした。

「でもよりによって……嬉しいわよ?嬉しいけど、なんでシリウスなのよ」
「もうその話は終わり!」
「終わらない!」

八重はリリーの背中を押して噴水から離れた。玄関までの石畳を歩き、玄関の扉を開けた八重はくるりと振り返った。シリウスとジェームズはなぜか身を寄せ息を止めた。

「解」

二本指を噴水に向けた八重が呟くと、光りは消え噴水は元の状態に戻った。シリウスとジェームズは恐る恐る噴水に近付き手を突けてみたが、冷たいだけで変わったところはなかった。

「誰?」

問い掛ける八重の声に、シリウスとジェームズの心臓が跳ねた。透明マントを被っている限り、人には見えずバレるはずがない。分かっていても焦った二人は急いでホワイト家の敷地を出た。八重は消えた気配に首を傾げ、自分を呼ぶリリーの声に返事をして家の中へ入っていった。





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