04



近所の子どもたちの声が小さく聞こえるリビングのソファーに横になるシリウスは、テーブルに向かい手紙を書いているジェームズの名前を呼んだ。羽根ペンをインクに浸けて自身の気持ちを必死に書き綴るジェームズは間延びした返事を返した。

「俺さ、八重のこと好きだと思う?」
「僕が君の気持ちを知ってると思う?」

五枚目の羊皮紙を用意したジェームズは、シリウスの恋路など興味ないといった様子。シリウスはジェームズの冷たい返事を特に気にすることなく天井の木目を数えながら話を続けた。

「多分一目惚れなんだけど。この俺が、あり得ないよな。でも絶対そう」
「あーあの時僕の言葉も聞かずに八重に近寄って行ったしね」
「だってあそこで八重だけずば抜けて輝いてたじゃん。一番可愛かったし」
「意義あり」
「受け付けない」

手紙を書き終えたジェームズが羊皮紙をヒラヒラと風に靡かせインクを乾かす。上半身を起こしたシリウスは、テーブルの上に置いてあるバタークッキーに手を伸ばし一口噛った。

「リリーに?」
「もちろん。君も八重に出したらいいじゃないか」
「手紙とか恥ずかしいこと出来るかよ。それに何を書けばいいか分からないし」
「デートしようとか気に入ったとかは本人に言えるのに?気軽に髪に触れられるのに?モテるやつは違うね、一度でいいからパッドフットになりたいよ」

止まり木で休んでいた梟の足に手紙を括り付け窓を開けたジェームズ。シリウスの食べ掛けのクッキーを嘴に咥えた梟は空へと羽ばたいた。ジェームズは毎日のようにリリーに手紙を出すが、リリーから返事が来たことはない。それでもへこたれないジェームズにシリウスは感服した。

「俺はプロングスになりたい。俺から好きになったことないからどうアプローチすればいいか分からないんだ」
「いつも女の子を落とすときにやってることやればいいんじゃない?」
「無理。それで冷たい目とか向けられたらショックで立ち直れない」
「やっぱり僕は僕のままがいいや」

そうそう見られるものではない珍しいシリウスの弱気な姿にジェームズはニヤニヤと表情を緩めた。夕飯を食べシャワーを浴び終えたその日の夜、シリウスとジェームズはいつものようにジェームズの部屋で夜更かしをしていた。何冊もの本を広げ、羊皮紙にああでもない、こうでもないと殴り書きを増やす。コンコンと窓が叩かれカーテンを開けると、昼間飛ばした梟が中に入れろと羽をばたつかせていた。急いで窓を開けたジェームズは梟の足に括られていた手紙を取り、二つに折られたそれを開いた。手紙に目を通すジェームズを横目に、シリウスは梟におやつを与えた。

「シリウス……僕に感謝してくれ」
「は?」

眼鏡をキラリと光らせたジェームズはシリウスに手紙を渡した。差出人は八重。シリウスは勢いよくジェームズに顔を向け、ジェームズは得意気に笑った。

「なんで、」
「リリー宛の手紙に八重宛のも付けといたのさ。リリーは他人宛の手紙を捨てたりしないよね?って書いて」
「お前、アイツの扱い上手いな」

笑顔を崩さないシリウスは手元の手紙に視線を移し、八重からの返事を読んだ。

「お手紙ありがとう。私でよければぜひ。……どう言うこと?」
「ああ、良かったらシリウスと文通してくれないかって書いたんだ。その返事がそれ」
「……いや、嬉しいけど。俺、何書けばいいか分からないって」
「思ったことをそのまま書けば良いんだよ。聞きたいこととか、今日はなにがあったとか」

テーブルに出したままだった本を適当に端に寄せたシリウスは、新しい羊皮紙を用意すると羽根ペンにインクをたっぷり吸わせた。そのまま何を書くか悩むシリウスの隣に座ったジェームズが態とらしく咳払いをした。

「いいかい?手紙って言うのは相手が近くにいないだけで会話と同じなんだ。質問をすれば返事をしやすくなる」
「疑問系で終わらせろってこと?」
「そういうこと!君女の子と話すのは得意だろ?」
「……いつもあっちが一方的に喋ってるから」
「ああ、そうだったね……。取り敢えず今の気持ちを書いたら?」

少し悩んだシリウスだが、羊皮紙にペンを走らせるとすぐに梟に手紙を託した。疲れているのか飛ぶことを渋る梟を半ば強引に飛ばし、満足げにベッドにダイブしたシリウスはそのまま眠りについた。ベッドを奪われたジェームズはため息を吐くものの、その表情はどこか楽しそうだった。





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