ハッと目を開け上体を起こし、寝てしまった事実に頭を抱える。ふと目を向けた窓の外は真っ暗だった。それもそうだ、宇宙だから。時計のないこの部屋では今が何時か分からない。いや、そんなことはどうでもいい。高杉の隙をつくつもりが、あろうことか爆睡して逆に隙を作ってしまった。あーあ、と後悔したあたしは次に驚きで目を見開いた。 「……なんで」 高杉があたしの横で寝ていたのだ。狸寝入りか、いやでも心地よさそうだ。リズムよく聞こえる寝息にこれは本気で寝ていると確信したあたし。多少の隙どころか隙だらけの高杉に馬乗りになったあたしは、その首筋に舌を這わせた。ピクリと眉を動かし目を開けた高杉は、あたしの首に手を掛けた。 「ついに頭イカれたか」 『欲求不満で』 「寝込みを襲われるのは趣味じゃねェ」 『んじゃあ今だけ襲われるのを楽しんでください』 寝起きのそれほど鋭くない目を向けられたあたしは、自身の帯を緩め着物をずらし肩を出した。その肩を撫でる高杉に少なからず欲情したあたしは、高杉の着物の褄先を開き下着の上から中心部分を撫でた。段々と大きくなるそれに気持ちが高ぶる。 『んっ』 「中々いい眺めだな」 ゆっくりと着物を脱がされ、下着をずらされたあたしは高杉に胸を揉まれ声を漏らす。細くも筋肉のついた高杉の腹部。そこを執拗に撫でるあたしの乳首を口に含んだ高杉は、着物を捲し上げ脚に手を這わせてきた。官能的な雰囲気に、このまま一発ヤってしまってもいいんじゃないかと思う。だがあたしもそこまでバカじゃない。すぐに考え直し、高杉の襟先に手を掛け胸板を露にした。 『ビンゴ!』 短刀を隠し持っていたことを思いだしたあたしの読み通り、高杉の懐に隠されていた杖。胸板に顔を埋めながら懐を探り、ついに杖を奪還したあたしはすぐさま高杉の上から飛び降り距離を取った。乱れた着物を整えていると、ゆらりと高杉が起き上がった。 「……ここまで殺したくなった女は他にはいねぇ。テメェだけだ」 『やっべぇオンリーワン』 今までで一番の殺気を放つ高杉に心臓が止まるかと思った。ジリジリ詰め寄る高杉の刀があたしを二つに裂く前に、姿くらましの体勢をとる。ここから逃げて銀ちゃんたちの元へどうしても帰りたいと強く意識し、ポンと音をたててあたしは高杉の前から姿を消した。サヨナラ高杉さん。 『いてっ』 「八重!?」 「八重ちゃん!」 「八重ー!心配したアル!」 「エリザベス!八重殿が戻った!」 着地に失敗したあたしは床に尻餅をついた。どうやら宇宙でも魔法は使えたようで、目の前には銀ちゃんたちがいた。何度も呼ばれている名前なのに、なぜかとても嬉しくてあたしは銀ちゃんたちに抱き付いた。 「八重ちゃん血が出てますよ!」 「ほんとアル!着物に滲んでるネ」 『あ、そうだ忘れてた』 痛みに慣れてしまっていたのか、新八に言われて思い出した刺された脇腹。傷痕に治癒魔法を掛け着物の汚れを落としたあたしは、改めて危険な場所にいたんだと身を震わせた。ここがヅラの船であると言われて安心したのか、身体から力が抜けるのが分かった。 『殺されるかと思ったぁ』 「一応聞くが、誰にやられた?」 あたしを支えてくれている銀ちゃんが、脇腹を指摘しながら問うてきた。高杉だと答えれば、フラグ回収お疲れさんと言われた。なんだか馬鹿にされている気がしたが、肩に回された銀ちゃんの腕が優しいから考えないことにした。地球に戻りながら連れ去られた経緯を話すと、銀ちゃんは申し訳なさそうに謝ってきた。これは誰のせいでもない、と言うか一方的に高杉が悪い。 『みんな心配してくれてありがとう。宇宙まで探しに来てくれてさ』 「真選組も、かぶき町も、吉原も、皆八重ちゃんを探してくれたんだよ」 『ほんと、迷惑かけちゃったんだね』 「それほど愛されていると言うことだ。今回はお前が悪いわけではない、気にやむな」 追われる身でありながら江戸中を探し回ってくれたヅラとエリザベス。船を出して宇宙にまで来てくれた彼になんとお礼したら良いか分からない。後でお蕎麦でも奢ってあげようか。 「にしても高杉に八重がバレちったか」 「ヤツに執着されてなければいいが」 『そういえば、ここまで殺したくなった女はあたしだけだって言われた』 「お前なにしたの?」 『えと、色仕掛け?』 確かに中途半端で終わらせたのは悪かったと思ってる。と言うかあたしも出来るなら最後までやりたかった。あたしの言葉に銀ちゃんとヅラは驚いたようで、まじで?と食いついてきた。 「アイツ女目の前にして目ェ血張らせるだけの男だぜ?下手とか本音言っちゃったの?」 「クソつまらない男とか言ったんだろう。ヤツには禁句だからな」 『いや、杖奪うためにちょっといい雰囲気にしただけだよ。んで杖手に入ったから逃げてきたの』 「最後までヤる気でいたんだアイツ……なのに不完全燃焼で……ぷーくすくす」 「言ってやるな銀時……ぷーくすくす」 ああ、高杉ってこんな扱い受けてたんだっけ。銀ちゃんにからかわれてたっけ。そんなこんなで宇宙を抜け、地球に戻ってきた船。夜だからか窓の外は暗くなにも見えなかった。 「まぁでも八重ちゃんが無事でなによりですね」 「だなぁ。だけど高杉のことだ、お前に目ェつけたんなら殺りにくる可能性がある」 「そしたら私たちで八重を護るアル」 神楽があたしに抱き付いてきた。あたしも神楽を抱き締め返す。新八も銀ちゃんもヅラも笑っていてくれて、護られるのも悪くないと思えた。あたしたちの乗る船は下降して海に着水し、無事港に停泊した。久々の硬い地面に感動してジャンプしたらお腹の傷が痛み、呆れ顔の銀ちゃんに大人しくしてろと定春の背中に乗せられた。目に映った東の空は少しずつ白み始め、朝を迎える準備をしていた。 Top |