東雲


カチカチと時計の音が響く客間の電気は昨日から点りっぱなしで、あたしはソファーに座りっぱなし。チュンチュン鳥の囀ずりが聞こえてきて、あぁもう朝かなんて思うけど視線はずっと手元にある漫画に向けている。──昨日、いつもながら暇だった万事屋。あたしは何気なしに新八と神楽が万事屋で働くこととなった経緯や、神楽やその他の天人のこと、銀ちゃんがどんな子どもだったのかを聞いてみた。銀ちゃんは面倒くさそうにしながらも答えてくれていたのだが、本当に面倒くさくなったのか床屋に行くと言って出掛けてしまった。かと思えば大量の漫画を持って帰って来た。


「ほらこれ読め。これ読めば俺たちがどんなことをしてきたか全て分かっから」
『なにこれ、"銀魂"?……え!表紙銀ちゃんだ!え!なんで!?』
「いや俺実は漫画の主人公でさ〜もっと言うとアニメにもなってるしゲームも出てんだわ」
『え?え、え?なにわっかんない。ここは漫画の世界ってこと?』
「ここは小説だな。漫画とは繋がりのあるパラレルワールド的な?まぁ兎に角読め」


そんなやり取りがあって、頭の整理がつかないまま銀ちゃんが主人公の"銀魂"を読んでみた。感想は「なんだこれ」だった。そのまんま銀ちゃん達の日常が描かれていて、基本的にバカなことしかしてなかった。しかしページを捲るごとに笑って、感動して、なにより剣と剣でのバトルシーンは皆すごくカッコいいと思った。彼らが怪我をして帰ってくるのは、何かを護るために戦っていたからなんだと分かった。万事屋の仕事もあたしが手伝っているような緩いものじゃなくて、たくさんの人を救うすごい仕事だった。銀魂、読んでよかった。
最新巻である最後の一冊を手にして時計を見れば、もうすぐ新八が出勤してくる時間だった。ドキドキしながらページを捲っていると玄関が開く音がした。新八だ。


「おはようございまーす。あ、八重ちゃんおはよう」
『おはよー』
「銀さんと神楽ちゃんはまだ寝てるんだね」
『いつもと変わりませんね』
「はは、だね。……八重ちゃんもしかしてその漫画」
『あ、うん銀魂。銀ちゃんが読めば俺たちのこと分かるからって』
「なに考えてんだあの人。この世界の常識は他の世界に通用しないのに……八重ちゃん混乱しちゃうよ」


いつものように銀ちゃん達を起こした新八は、持ってきたタッパーからおかずをお皿に盛り付け朝ごはんの用意をしてくれた。あたしも読み終えた漫画を片付けて、まだ眠気眼の神楽と銀ちゃんに挨拶をして朝ごはんを食べる。美味しい。


「銀さん、八重ちゃんに銀魂なんて見せないでくださいよ」
「コイツが今までのこと知りてーっつーから手っ取り早く知れるものを教えてやっただけだしー」
「八重、私どうだった?可愛かったデショ?カッコいいデショ?」
『うん。皆そのまんまですごい笑ったし感動したし、かっこよかった!』
「だろー?銀さんのカッコよさが分かったなら読む価値があっただろ」


すごいだろ、面白いだろ、と自慢する銀ちゃんと神楽だけど、疑問に思うことがある。


『あのさ、漫画だと今すっごいシリアスなんだけど……虚とか言う不死身のやつと戦ってて江戸がヤバくて銀ちゃん達も追い詰められてるんだけど』
「あーそんなこともあったな」
「ありましたね」


銀ちゃんはご飯を、新八はお茶を飲みながら懐かしそうに答えた。なんだそれ、どういうことだ。と言うかこんな暢気でいいのだろうか。戦わなくていいのか。ってか江戸はとても平和だ。解放軍なんてもの聞いたことも見たこともないし、オルタナが暴走しているなんてこともない。思ったことを口にすると、もっさもっさと朝ごはんを食べながら銀ちゃん達が説明してくれた。


「だから昨日言っただろ?繋がりのあるパラレルワールドだって」
『ん?んん?』
「つまり、ここ"小説銀魂"は"漫画銀魂"を元に作られたパラレルワールドなんだ」
『……ほお』
「だから"元"となっている漫画銀魂は、俺たちそのものだ。海にも行ったし将軍とプールも雪山にも行った。鳳仙と戦ったりエイリアンと戦ったりもした」
「漫画銀魂はシリアスだけどここは夢小説だから関係ないネ!管理人が物語を進めるにあたって原作沿いは書くのが面倒だからパラレルワールドってことにしたアル」
『夢小説……管理人……』
「おい神楽ややこしくなること言うんじゃねぇ!」


つまりなんだ、特に気にせずあたしはこの世界で生きていけばいいってことか。だって漫画通りだったら真選組はいないはずだし。なんか良く分からないけど分かった。でもあれだ、怪我をして帰ってきたりするってことは、漫画に書いていない何かしらの事件に巻き込まれてるってことか。宇宙海賊と戦ってたりするわけか。


『ねぇ銀ちゃん』
「んー」
『高杉晋助って人は危ない人なの?』
「あーまぁな。大丈夫だとは思うが気を付けろよ」
「うちのバカ兄貴にも気を付けるアル。八重は珍しいから目を付けられるネ」
『あたし強いから大丈夫だと思うけどね。気を付けるよ』


銀ちゃんの昔馴染みの高杉晋助。漫画ではかなり過激な人で、でも解放軍と戦ったりと銀ちゃん達側な気もする謎な人だ。悪い人ではなさそうだし、ここの小説では仲が良いのかと聞いてみたら、そんなわけねぇだろと怒られた。高杉とはいったいどんな人なのだろうか。




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