暁2


ギラギラ照り付ける太陽が眩しい8月、ようやく元のあたしに近付いてきた今日この頃。20歳のころの姿までもう少しかなと言ったところだ。いつものようにデスクに足を置いてハナクソをほじる銀ちゃんと、杖を振って掃除をするあたし。神楽は定春の散歩に行き、新八はタイムセールを見計らって買い物に出掛けた。主婦か。そんないつも通りの日常。掃除が終わり銀ちゃんにイチゴ牛乳を差し出すと、「分かってるじゃん」と口角をあげた。


「髪伸びたな。切らねーの?」
『髪の毛は女の象徴だからね。それに、あたしのこの髪が好きって言ってくれる人がいたから切るつもりはないの』
「ふーん。……彼氏?」
『えっと、大切な人たち?』
「なんで疑問系?」


銀ちゃんに聞かれてふと思った。なぜだろうか、確かに言われた言葉なのに、誰に言われたか思い出せない。親友の……親友だったかもあやしい。あたしのブロンドの髪の毛を褒めてくれていたのは誰だっけ。いつも一緒だった彼ら?いつも一緒にいたのは誰だっけ。もう会えない彼らを忘れてしまったことに動揺する。こっちの世界に来たことで記憶が抜けてしまったのだろうか。


「……」
「八重?……おーい八重さーん」


銀時に目の前で手を振られてハッと意識を戻した。いけない、なんだかしんみりしてしまった。大丈夫かと聞いてくる銀ちゃんに、えへへ、と誤魔化すように笑ってみると、タイミング良くインターホンが鳴った。出ようとしたら俺が出るよと銀ちゃんが動いた。


「…まぁなんだ。俺もその髪、綺麗だと思うぜ」


通り際に頭をポンとたたかれた。髪の毛を切らない理由が一つ、増えた。来客用のお茶を用意していると、玄関で何やら話していた銀ちゃんがお客さんを連れて戻ってきた。


「よぉ」
『んぇ、総悟何しに来たの?』


来客は総悟だった。隊服を着ているということは仕事中だろう。サボりか、それとも爆破した長屋の修理依頼か。銀ちゃんと総悟は対面するようにソファに座った。あたしはお茶を出し、銀ちゃんがソファを叩いたので銀ちゃんの隣に腰かけた。


「んで、八重を貸してほしいってどーゆーこと?」
『え、あたし?』


どうやらサボりではなく依頼だったようだ。しかも、修理の依頼ではなくあたしを貸してほしいとかなんとか。どういうことだ。


「ウチの屯所の食堂のオバちゃんが、休みがないって騒ぎましてね。なんならもう旅行の予定組んでやがった。それも6人全員でだ。近藤さんもオバちゃんの迫力に敗けやして、明日から5日ほど飯当番がいないんでさァ」
「へぇーそうなんだ」


銀ちゃんは鼻をほじり、指についたハナクソをピンと飛ばした。それは総悟に出したお茶に入ったが、総悟はなにも言わずに銀ちゃんのイチゴミルクと交換してそれを飲んだ。銀ちゃんの表情が険しくなった。


「そう言うことなんで旦那、5日間八重を貸してくれやせんかね」
「でもねー、八重もウチの大事な料理当番なわけよ。それを無償で貸すってのは」
「近藤さんがこれだけ出すって言ってました。前払いで」


トントンとテーブルを指で叩く銀ちゃんに、総悟が白い封筒を渡した。風の如く封筒の中身を確認する銀ちゃんは、ひィふゥみィ、と数を数え満足げに笑った。


「八重、頑張れ。魔法使えば6人分くらいまかなえるだろ」
『えー』
「いいか、これは依頼だ。万事屋の一員である以上、お客様からの依頼と社長命令は絶対だ」


あの封筒に一体いくら入っていたのだろうか。こういう時だけ社長面する銀ちゃんが憎い。でも万事屋の一員と言われて嬉しくなってしまったチョロいあたしは首を縦に一回振った。


「じゃ、交渉成立ってことで。献立やら調理場の使い方やらをオバちゃんに説明してもらうんで、今から八重借りてもいいですかね」
「おーう。気ぃつけてけよ」
「じゃあ旦那、6日後に」


何度数えても増えないだろうに、銀ちゃんは封筒から目を離さず手を挙げた。行くか、と総悟が立ち上がりあたしはそれに着いていく。玄関で靴を履いて、総悟が呟いた。


「5日間住み込みなのに別れの挨拶もなしか。旦那はよっぽど俺たちを信用してるみてェだ」


耳を疑った。いや、え?住み込みとか聞いてない。玄関戸を開けて外に出たあたしは、ポケットに手を突っ込み階段を降りる総悟にどういうことかと問い掛けた。


「朝昼晩はもちろん、夜勤の隊士用に夜食も用意するだろ?食事が終われば後片付けだ仕込みだと忙しい。つまり、てめーがここに帰ってくる暇はねーんだよ」


なんとも恐ろしい顔で笑った総悟。鬼だ、こいつ鬼だ。


「服や下着は心配しなくても、とっつぁんが用意してるんで大丈夫でさァ」
『とっつぁんが誰だか知らないんだけど、それ本当に大丈夫なのかなぁ!?』


銀ちゃんに助けを求める暇もなく、逃げられたら困るからと手錠を掛けられパトカーに押し込められたあたし。素知らぬ顔で運転席に乗り込んだ総悟はヨロシクな、と口角をあげた。お巡りさん、助けてください。




Top



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -