夜明け2   side銀時


依頼中、面倒ごとに巻き込まれた俺は久しぶりに大怪我を負った。死ぬようなもんじゃなかったが、腹に穴を開けられりゃ痛くて涙が出る。しかし病院に行く金がない可哀想な俺は、腹に包帯をグルグルに巻いただけのまま家に帰った。新八に支えてもらいながら玄関に入ると、出迎えてくれた八重の表情が一瞬で曇った。服を着ていて見えない傷口も、滲み出た血で怪我がバレる。と言うか新八に支えてもらってる時点で何かあったことはモロバレだ。


「新八、銀ちゃんどうしたの」
「ちょっと怪我しちゃって。安静にしてれば治るみたいだから、八重ちゃん悪いんだけど和室にお布団敷いてくれる?」


歩く度にズキズキ痛む傷。八重に心配をかけまいと笑顔を見せるも、八重の表情は緩むことなく険しいまま。いつもなら新八に言われたらすぐに動く八重だが、今回はそこから微動だにせず俺に杖を向けた。


『モビリコーパス』


八重が呪文を唱えると、俺の身体が軽くなった。なぜなら宙に浮かんでいたからだ。驚く俺と新八をよそに、八重は杖を動かしながら客間へと歩いた。


『痛い?』
「痛くねェよ」


フワフワと浮かんだまま和室に連れてこられた俺は、八重が敷いてくれた布団にゆっくりと横たわる。呪文の効果が切れたのか、重力に従った身体の重さが背中に加わった。


『エピスキー』


血の滲んだ場所に八重が呪文を唱えた。杖先からはオーラのようなキラキラしたものが出ていた。変なことはされてないだろうと思いながらも、何をしたのか気になり服を脱いで傷口を見てみれば、ぱっくり開いていた穴が綺麗に縫われていた。


『ただの応急処置魔法だから、痛みとかは消えないし中身までは治らないけど』
「へぇ、すげーな」
『ゴメンね。あたし医療魔法あんま知らなくて』


今にも泣きそうな悲しそうな顔をする八重。意外にも初めて見るその表情に俺の心が痛んだ。


「お前が魔女で助かったよ。血が出てるのと出ねェのじゃ全然違うしな」
『うん。……あたし、出掛けてくるね』


和室を出ていった八重と入れ違いに新八が寝間着を持ってきて、痛い痛いと騒ぐ俺の着替えを手伝ってくれた。─と言うのが昨日のやり取りだ。八重が出掛けた後すぐに眠りにつき、怪我のせいか一日中寝ていた俺は夜に目を覚ました。物音がする客間で、怪しげな液を煮詰めている八重を見つけたのはその後すぐのことだった。

どうやら八重は俺の傷を治す薬を作ってくれていたらしい。毒薬を作ってんじゃねーのかと八重に詰めより、声を出せない魔法を掛けられたりと色々あったが、八重が作ってくれた透明の液をかけられた傷口はみるみるうちに塞がった。腹に残るのは切り傷のような傷痕だけで、ズキズキと脈打っていた痛みも綺麗さっぱりなくなっていた。


『銀ちゃん』
「んー」
『死なないで』
「俺ァこんな傷くらいじゃ死にゃあしねーよ」


俺の胸に顔を埋めた八重が、消え入りそうな声で呟いた。きっと不安で仕方なかったんだろうと思い、子供をあやすように小さな背中をポンポンと叩いた。俺じゃなく、新八や神楽、気に食わねぇが真選組のやつらが同じように怪我をしても八重は心配して薬を作ってくれるだろう。護れねェだのなんだの言っていたが、コイツにはコイツの強さがあって、俺たちはそれに助けられる日がくるに違いない。いつの間にか寝息をたてていた八重の前髪をかき分けて、露になった額に唇を落とした俺はかなり疲れているのかもしれない。




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