夜明け3


隣から漂う酒臭さで目を覚ます。最悪の朝だ。もぞもぞと布団から出て服を着る。連日続く雨で数少ない着物が全滅したあたしは、銀ちゃんのTシャツを借りることにした。押し入れから適当に掴んだのは、ドクロのイラストにkill meと書かれたTシャツ。顔を洗いに台所に行き、そのまま厠へいく。いつもの朝だ。


『…まじでか』


いつもと違うのは、用を足した後にドロっとした感覚があったことくらいだろう。女であるがゆえの使命、便器を覗けば赤い湖、月の使者。そう、生理だ。生理が、きてしまった。きてもおかしくはない年齢だけど、今この状況はピンチだ。なぜなら露利英がないからだ。


『か、神楽ァア!ちょっ、きてー!ヘールプ!!……神楽ァア!…………かぁぐらぁぁああ!』
「うるせェ!神楽なら近所のガキと遊びに行っただろ!」


二日酔いで寝てる銀ちゃんの叫び声でさらに焦る。新八にお妙を呼んできてもらおうかと思ったけど、新八はお通ちゃんのライブがあるから今日は休むと言っていた。いやでも待て、神楽も14歳だ。もし生理がきてればこのトイレのどこかにあれがあるはず。と言ってもこのトイレ、トイレットペーパーと掃除道具意外なにもない。棚もなければゴミ箱もない。ダメだ、振り出しに戻ってしまった。


「ったく起こすなよ。あー頭いてぇ。……オーイ八重、トイレまだか。大のほうか?」


どうするか。買いに行くにしてもあたしはもうお金を持っていない。この間色々買わなければよかったと後悔してももう遅い。銀ちゃんにお金をもらうとしても、何を買うか言わなくてはいけない。恥を忍んで言うしか……いやでも買いに行くまで血を防ぐものがない。


「…八重?ちょっと銀さん結構きちゃってるんだけど。お腹ゴロゴロしてるんですけど、早くしてくんない?」


なら銀ちゃんにお登勢さんを呼んできてもらうか。いやでもお登勢さん夜の蝶だから朝は寝てるし、もう閉経してるだろう。たまはロボットだし、キャサリンはよく分かんないし。


「八重ちゃん!?まじで何してんの!?やばいんだって!頭出てきちゃってんだって!」


もうこうなったら自分で行くしかない。トイレットペーパーを股に挟んでお妙ん家に行こう。箒で行けばそんなに血は出ないはず。


「あっ、つーかトイレットペーパーまだ残ってるか?昨日帰って来て入った時に買わなきゃなって思った気がすんだよな。八重、あんまペーパー使うなよ!銀さんトイレから出られなくなっちまう!」


左の壁には何回か使われて一回り小さくなったトイレットペーパー。よし、いける。あたしはカラカラとペーパーを引いて折り畳んでいく。カラカラカラカラ、出来るだけ分厚く。


「ねぇそれ何の音?そのカラカラって何の音かなぁ!?俺の話聞いてた!?ペーパー残しとけって!てか早く出てこい!もう本当に限界!」


納得出来るペーパーの分厚さになったそれを、股に挟んで下着とズボンを上げる。どうかずれませんように、漏れませんようにと念じて水を流す。鍵を開けてドアを開けると、充血させた目を見開いてお尻を押さえてる銀ちゃんにぶつかった。まだ寝巻きとはだらしない。


「おまっ、出そうになったじゃねーか!そこどけ!」


あたしを押し退けて便座に座った銀ちゃん。限界が近かったのかもしれないが、思春期真っ盛りの女の子の前でパンツ下ろすのどうかと思う。


『あたしちょっと出掛けてくるね!』
「どこにでも勝手に行ってこい!」


1秒でも早くお妙の所に行きたい。と、思ったところであたしはあることに気付いた。……あった。箒よりも早く一瞬で行ける方法が、あったのだ。


「ねぇ、早く出てってくんない?流石に女の子の前でけつからブリブリしたくないんだけど」


お妙の家に姿現しをすればいいのだ。姿現しとはつまり瞬間移動のことだが、こんなに素晴らしい魔法のことをなぜ忘れていたのだろう。自分が魔女であることを誇らしく思う。


「あっ、ちょっ、行くならドア閉めてくれ。俺ちょっともう届かないから」


どこへ、どうして、どういう意図で行きたいかを強く意識して、あたしはそこから姿くらましをした。


「…八重?…嘘ちょっと待ってよどこ行っちゃったの。…ふざけんな!ドア閉めろっつったろー!……(カラッ)ペーパーがないィィイイ!」


無事にお妙ん家に着いたあたしは事情を話して露利英をゲットした。あとでちゃんと買って返すねと言えば、お互い様よと言ってくれたお妙。ありがたい。
そのあと姿現しで無事に帰って来たあたしが、無事じゃなかった銀ちゃんを見付けるのはすぐのこと。




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