彼者誰   side新八


5月2日はかぐやちゃんが竹から生まれてきた日。そんなかぐやちゃんが少しずつ歩き始めたのは、竹から産まれて5日目のこと。そして10日目の今日、片言ながらも喋り始めた。成長スピードは本当に竹取物語のようで、かぐやちゃんはなんの天人だろうか、と万事屋の話題は専らそれだ。赤ん坊ながらに整った顔立ちは本当に可愛くて、将来は超人気アイドルにもなれると思う。お通ちゃんには及ばないと思うけど。姉上も僕も1日中家にいるわけではないことから、かぐやちゃんのことは万事屋で面倒を見ることになった。銀さんは面倒くさいとか言って乗り気じゃなかったけど、姉上の一言で全てが丸く収まった。神楽ちゃんもかぐやちゃんの面倒を良く見てて、おままごとのようにも見えるけどそれがまた微笑ましい。勘七郎の時もそうだったけど、みんなかぐやちゃんにメロメロだ。


「うるせぇよ新八ィ。人のこと語ってる暇あったらかぐやのオムツと酢こんぶ3箱買ってくるアル」
「人の心読むの止めてくれるかな。それに、酢こんぶは神楽ちゃんのでしょ」


かぐやちゃんの髪の毛を結っていた神楽ちゃんに雑用を頼まれた。確かにオムツはなくなってたし、かぐやちゃんは大人顔負けのうんちをするからいずれにせよ買いに行かなくてはいけなかった。仕方ない、ついでに夕飯の買い物もしてこよう。


「銀さーん。買い物行ってきますね」
「「「ひーめ!ひーめ!ひーめ!」」」


出掛ける用意をして声を掛けると、神楽ちゃんと銀さんと近藤さんが横一列に並んで必死に声を出していた。あぁまた始まった。かぐやちゃんが誰のところに行くかゲーム。


「…ぁっだー!また負けたー!」
「はっ。うちのかぐやちゃんがケツ毛ゴリラを選ぶわけねぇだろ!」
「銀ちゃんのことも選んでないアル。かぐやは一直線に私のとこに来たアル。かぐやは神楽ちゃんのことが好きなんだよね〜名前も似てるもんね〜」
「違うよね〜。本当は銀さんのことが一番好きだよね〜」
「違いますぅ。いさ兄のことが一番」
「「誰がいさ兄じゃボケェエ!」」


くだらないやり取りに苦笑いをしつつ、僕は万事屋を後にした。銀さんも面倒臭そうにしながらもよく世話をしてると思う。ミルクをあげたり散歩に行ってみたり、やっぱり可愛くて仕方ないんだろうな。たまに今日みたいに近藤さんがくると、誰に懐いてるか競いだす。大体神楽ちゃんが勝つんだけど。いつも大人しくいい子なかぐやちゃんも、お風呂とオムツ替えの時はすごく暴れて大変だった。けど、今では死んだように大人しくやらせてくれる。いや、でもあの表情は死んでるに等しい。全てを諦めたような表情になる。とまぁ、元々賑やかだった万事屋が、今まで以上に騒がしくなりました。あれ、作文?


「あ、おいメガネ」
「いやメガネって。それで反応しちゃう僕も僕ですけど…なんですか土方さん」


買い物を終えて帰宅していたら土方さんに声を掛けられた。この人が僕に用事なんてトッシーの時以外あり得ない。大方近藤さんの行方についてだと思う。


「近藤さん知らねぇか。あの人またいなくなっちまった」


やっぱりね。土方さんは困ったように頭を掻き、吸っていたタバコの火を消した。


「ああ、近藤さんなら万事屋にいましたよ。呼んできましょうか?」
「いや、俺もかぶき町に用があるんだ。ついでに迎えに行く」
「そうですか。じゃあ一緒に行きましょう」


とは言ったもののこの人と会話することねえェ。気まずっこの空気気まず。早く、早く万事屋に着け。と願うも万事屋までの距離が短くなるなんてことはない。


「ただいまー」


ほぼ無言のまま万事屋に着いた。なんかいつもより長く感じた。ただ歩いてただけなのにライフが結構削られた気がする。部屋に上がった土方さんは、近藤さんを見るなりため息を吐いた。


「近藤さん…。ったく、あんたまで仕事サボってたら総吾になんて言やぁいいんだよ」
「おっトシ!俺ァサボってなんかないぞ!かぐやちゃんと遊びに来たんだ」
「サボりじゃねェか!誰だよかぐやって。……あ?ガキ?」
「おいおいなに勝手に人んち上がってウチのかぐやちゃんにガンくれちゃってんの?マヨネーズ臭くなるからやめてくんない?」
「ァア?…ってかどうしたんだよこのガキ」
「てめーに教える義理はねェ」
「この子は竹から産まれたかぐや姫だ!」
「言っちゃったよ本当に空気読めねェなこのゴリラ」


ソファに座る近藤さんの腕に抱かれるかぐやちゃんは汚れのない綺麗な瞳で土方さんを見つめていた。僕はあの瞳に見つめられたらすぐに反らす自信がある。


「かぐや姫だァ?」
「かぐやちゃん、真選組副長のトシだ。仲良くするんだぞ」
「しなくていい!こいつにだけは関わらせない!というかいい加減かぐや返せ!」
『トシ!』
「……」


手を伸ばしたかぐやちゃんが近藤さんから土方さんの腕の中に移動した。なんだよふざけんな、とか言いつつかぐやちゃんを優しく抱き視線を合わせた土方さん。……あれ、土方さんちょっと顔綻んでるよね。デレてるよね。喜んでるよね。─あぁ、万事屋に来る人が増えそうだ。




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