曇天の道を(1/3)


負傷、戦死、諦め、色々な理由で国のために戦う仲間は少なくなっていく。それは攘夷四天王と呼ばれる坂本も同じだった。腕を負傷した坂本が隊を離脱してからというもの、武器の調達を始め食料の確保など様々な面で苦労をした。坂本の敵打ちも叶わず隊士の士気も下がり始めた頃、幕府軍が東西から攻めこんできた。八重と銀時、桂と高杉の二方に別れ、四人はそれぞれの隊を率いて幕府軍に向かった。

「俺と高杉は西側へ行く。お前たちは東を頼む」
「ラージャ。死ぬなよ晋助」
「なめんじゃねェぞコラ」
「んじゃ、勝っても負けても…ジャボンティ諸島で!!」

別れる間際に銀時が言った言葉に三人は頷いた。ジャボンティ諸島なぞ存在しないが、勝っても負けても生きてここで落ち合おう、ということだと理解していた八重は銀時に背中を預け思う存分暴れまわった。銀時に傷ひとつも作れない幕府軍だったが、いかせん人数が多かった。その人数に苦戦しつつも勝利を収めた八重と銀時は約束の場所へ戻った。しかしそこに桂と高杉はまだ居らず、静かに二人の帰りを待つも隊士ひとりすら帰ってこなかった。

「銀時……」
「行くぞ」

夜が明けても帰ってこない可笑しな状況に、訝しげな表情の銀時が立ち上がった。桂と高杉が向かった西側に足を進め、着いた先のその光景に驚き二人は茫然と立ち尽くした。そこには全滅した桂の隊と鬼兵隊の姿があった。動揺しながらも銀時と八重は必死に桂と高杉の姿を探し、名前を叫ぶが見つからず返事もない。転がる死体の中でかろうじて息のあった隊士に説明を求めると、彼は息も絶え絶えに話し始めた。
幕府軍に加え、天人が何百といた西側。その天人は刀ではない武器を持った鬼のような風貌で、生身でも恐ろしく強かった。なんとか天人の息の根を絶やしたものの、あっという間にこちら側の人数は減り、そこに立っているのは桂と高杉、そして数名の天導衆。彼が最後に見たのは、気を失っている桂と高杉が拘束され、天導衆に引き摺られていく様だった。

「…やられた」
「銀時…?」

俯き震える声を絞り出した銀時は、手のひらに血が滲むほど拳を強く握った。

「アイツらの作戦にまんまとハマッちまったんだよ、俺たちは」
「どういうこと」
「アイツらの目的は俺たちの一人でもいいから潰すこと。東西から攻めれば俺たちも必然と分かれる。そこを狙ってきたんだ」
「でも…それにしては弱すぎた。人数は多かったけど」
「人数は多いけど弱かった。だからアイツらもすぐに戻ってくる。そう思って加勢に行かなかっただろ…」
「そう思わせるのも作戦のうちだったってこと…?」

顔を上げた銀時のその瞳に光は宿っていない。八重はゴクリと唾を飲み込んだ。

「助けに行かなきゃ。銀時!二人を助けに行こう!」

すぐにでも走り出しそうな八重を消え入りそうな声で止め、銀時が力一杯抱きしめた。

「俺が行く」
「うん、だから二人で」
「八重は待ってろ」
「は!?」

勝手を言う銀時に腹が立った八重は銀時から離れようとするが、強く抱き締められているため叶わなかった。

「お前まで危険な目に合わせたくねぇんだよ」
「今までだって散々危険だっただろ!何を今さら」
「アイツらを助けに行くってことは俺らもしょっぴかれる可能性があるってことだ。なんせ名の知れてる攘夷志士だ、そうなっちまったら打ち首だって免れねぇ」
「でも」
「俺は、先生と約束してんだよ」
「なにを!」
「仲間を護るって約束、してんだよ。お前も仲間だろ。護らせてくれ」

泣いているのか、声と体を震わせながら八重の髪の毛を撫でる銀時を八重が抱きしめ返した。

「ふざけんなよ。私だって先生と約束してんだ」
「…………」
「銀時を一人にしないって。皆が無茶しないよう傍にいるって約束してんの!」

暫く抱き合っていた二人はゆっくりと離れ、残してきた隊士に何も告げず高杉と桂を探しに旅立った。だがそんな二人旅もすぐに終わりを迎える。歩いていた二人の前に天導衆が現れ周りを囲み、刀を光らせる銀時に取引きを持ちかけた。

「大人しく着いてくればその女は殺さない」
「…………っ」
「銀時だめ。罠だよ」
「もし着いてこないならば、女は先に死ぬ」
「ふざけんな。私はあんたらにやられるほど弱くない」
「八重、ここまでだ」
「ちょ、銀時!」

刀を鞘に収めた銀時は、自ら天導衆に近付き後ろ手にロープで拘束された。銀時に駆け寄ろうとする八重は天導衆の錫杖によって妨害され、その悲痛な叫びが空に響き渡る。

「やだっ!銀時!銀時ィ!」
「大丈夫だ。ヅラと高杉連れて戻ってくる。必ず、どこにいても迎えに行く。これは八重との約束だ」

振り向いた銀時は八重に向けて口角をあげた。

「俺ァ約束は守る男だぜ?」

一歩、また一歩と遠ざかっていく銀時の背中に叫び続ける八重は、その姿が見えなくなると力尽きたように地に膝をついた。乾いた地面を濡らす涙は絶え間なく溢れたが、刹那鳩尾に走る痛みで止まることとなった。

「なっ……殺さない、って」
「逃がすとは言っていない」
「あっ!っぐぁ、銀、時……」

脇腹を刺された八重は、血を吐きながら気を失い目を閉じた。




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